2)観察とリサーチ
アキッレ・カスティリオーニのスタジオ2
わたしたちが訪ねたときは企画展が開催されていて、3つの部屋にそれぞれ60年代、70年代、80年代に設計した飲食店などの空間の展示があった。モックアップやプロトタイプに実物大の模型、ラフスケッチや設計図、実際に使われた家具に当時の写真など、プロジェクトの全容がつかめるように工夫されている。
人がどのように集い、視線が行き交うのか。どんな動作で、どんな器を使うのか。そして、それらが相互に関係し合うなかで、人はどう快適に過ごせるのか。それらの考察を深めながら、プロジェクトは進められた。
彼が何かをつくるときには、そこに必ず使い手の存在がある。カトラリーなどのプロダクトはもちろんのこと、空間を構成するときも同じだ。
今回の展示のひとつ、「スプリューゲン・ブロイ(Splügen Bräu)」は、1960年にカスティリオーニと兄のピエール・ジャコモが設計したミラノのビアホールである。この空間を設計するにあたって、カスティリオーニは人間行動を徹底して観察した。その集積に基づいて、訪れる客の視線の動きや動線、それをふまえた座席の配置などを考えつつ、照明の明るさと快適さの関係を追求する。もちろん、素材や機能性のリサーチも怠らない。
この空間を訪れる人たちが、少人数で落ち着いてビールを楽しみつつ、店全体の賑わいや空気感も味わえるように。照明は必要十分な明るさがあってリラックスでき、さらに空間全体も感じられるように。
その結果、生み出さたのが、鉄道のコンパートメントを思わせる空間と、アルミを加工したペンダントランプ「スプルーゲン・ブロイSplügen Bräu」だった。アルミ素材のランプはシェードがリブ状(段々)になっていることで表面積が増え、放熱を促す。見た目もかろやかで、まさに、機能から美しさがもたらされている。
一貫して使い手の側に立ち、追求されるデザイン。そのことが体感できていく。
また、このスタジオにいると、彼の「発見」にふれて、取るに足らないものがとても魅力的に見えてくる。大小様々なびん。おびただたしいサングラス(のようなもの)、古くからある道具……。日用品は、彼にとってはアイデアの宝庫だった。これらのものをよく観察し、特性や用途などを解釈しなおすことが、彼の根本にあった。