3)女たちだけで、無理なく、楽しく
しだいに会員内で調理して試食するだけでなく、地域の人に味わってもらうため、公民館など場所を借りて、定期的に「食事会」がひらかれることになった。地元の料理にもかかわらず食べに来た住民たちにも新鮮な驚きをもって受け入れられ、その評判は広がってゆく。いまでは工藤さんの自宅を開放して毎週木曜から日曜の昼に、予約制の食事会として一食1500円でふるまわれている。
現在のあかつきの会の活動の軸は、この食事会だ。お客さんに、その奥深い食文化を味わってもらうのはもちろんのこと、調理のなかでかっちゃは工程を復習し、あっちゃはその味を覚える。評判は広まり客足は国内外から及び、国際的に活躍するシェフたちも彼女らの料理に惹かれてやってくる。
そうして、23年という時間のなかで、活動を取り巻く環境は徐々に変わってきた。工藤さんはこの長きにわたる活動をどう捉えているのだろうか。
———ずっと楽しかったですね。一生懸命やらなきゃいけなかったら苦しかったかもしれないけど。あのね、お金にならないっていいんですよ、好きなようにやれるから。人によって集まる気持ちは違って「仲間になりたい」という人と、「この料理を私も覚えたい」という人とそれぞれあるけど、私たちは「料理をつくる」っていう大きな共通の目的は変わらない。女ばっかりで、ごちゃごちゃするんですけど、そんなものはどこにでもあるし、それもまた楽しいのうち。
あかつきの会発足当時から、工藤さんが会員に伝えていることがある。それは、「何をやってもいいけど、家庭や家業が一番。子育てしてる人は子育てが一番。その次の次が、あかつきの会だ」ということ。立ち上げ当初のメンバーの大半は農家で、日中は忙しいことから早朝に集まっていた。日が昇るより少し前の時間に集まり、6時には解散してそれぞれ家業をやった。そうした「あかつき」の時間帯に活動することから、会の名前は「津軽あかつきの会」と付けられた。こうした名付けにも、工藤さんの活動に対する強い思いが表れている。
———会の活動が家庭に響いてしまったら、家族が反対してしまって続けられなくなってしまう。仕事や家業が忙しいときは来なくてもいいんです。来れる人が来てやる。どこまでも家のことが主であること。それがやっぱり、長続きするコツだと思うんです。無理をするとだめですね。
発足当初から変わらない、あかつきの会のあり方。もうひとつ変わらないことが、女性の会員だけで活動しているということ。そこにも工藤さんの意思がある。
———男の人が入れば、いろいろ揉めるでしょう(笑)。そうじゃない人もいるけど、男の人ってリーダーになりたがる人が多いし、ちょっと混乱すると思うんです。手伝ってくれる人は、どうぞ大歓迎ですけど、あくまでも奥さんがここで活動していることのサポート。男性の正式な入会はお断りしています。
調理にしろ食材にしろ、昔からのしきたりに習い、それを次世代につながんとするあかつきの会。俯瞰して見れば、年長の工藤さんたちもまた、何世代にわたって台所を仕切ってきた津軽の母たちの思いをバトンされた娘たちである。台所に立つとき、そんな矜持も含まれているかもしれない。