2)一瞬でも力を抜ける場所に 「雑な関係」を
溝口さんが生駒で食堂をやってみて気づいたのは、この地域には経済的に困っている子だけではなく「お金はあるけど時間がない子」もたくさんいるということだった。塾に習い事で忙しい日々を送り、両親は共働きで、学校から帰るとテーブルにお金が置いてあってコンビニでご飯を買って食べるというケースも少なくないという。
言われてみると、たしかに生駒駅周辺には塾が多いことに気づく。駅構内にも一軒、チロル堂の斜め向かいにも塾があり、夜9時を過ぎても子どもたちは熱心に机に向かっていた。
———7つ、8つと習い事をやっている子もいっぱいいて、遊ぶ暇がないんです。どこかでポキッと心が折れるじゃないですか。だから、お昼に食堂をやっているおばあちゃんが握ったおにぎりを並べて。無料だと嫌がるからプレゼント、っていって50円とかで食べられるキャベツ焼きとかコロッケとかも一緒に並べて。子どもたちの心が折れないようにと願って渡しています。
「喉渇いた」とか「お腹空いた」とか言われたときに返事するくらいの“雑な関係”がつくれる場所、手を伸ばしたときに触れるぐらいの距離感でいたい。仲良くしなくていいし、ええこと言わんでいいし、近所のおばちゃんっていうだけの関係がずっと続けばいいなって。やりたいのはそれだけなんです、ってボランティアの方にもずっと伝えています。
溝口さんは地域の子どもにずっと関わってきた日々のやりとりから、子どもたちにとってどういう存在が必要とされているのかを実感してきた。
———チロル堂さんが場所を貸してくださっている間、一瞬でも力を抜ける場所。「○○に会いたい」とか「○○が食べたい」とか頭をよぎるようにって思っています。学校の先生でも塾の先生でもない、親でもなんでもない人。そういう人が必要かなって。
朗らかに笑う溝口さん。どれだけの人がこの笑顔に救われてきたのだろうかと思う。どんな変化もしなやかに受けとめ、子どもたちが「お腹すいた!」と気軽に言える“雑な関係づくり”を大切にしながら、地域の人々とともに、たわわ食堂を日々、進化させている。