アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#125
2023.10

「育つ環境」をととのえる 人も、自然も

1 観察する、言葉をひらく NPO法人SOMAの取り組み
1)「人を観察する仕事」をつくる

瀬戸さんの言葉には、手ざわりがある。滑らかな思考の跡をなぞりながら発される言葉は、ほとんど淀みなく、しかし決して上滑りすることがない。ひとつひとつの言葉がしっかりと「自分のもの」になっていて、実感がこもっている。瀬戸さんと話していて印象深かったのは、なによりもまず、この言葉に対する真摯さだった。

2023年8月、瀬戸さんは福岡空港でわたしたちを出迎えてくれた。そこから瀬戸さんが運転する車に乗せてもらい、これから瀬戸さんが授業を行う佐賀県の東明館高等学校に向かった。車中でさっそく話が始まる。

瀬戸さんは1980年、東京都に生まれた。桑畑や果樹園がまだ多く残る地域で、自然に触れる機会が多かったこともあり、幼少期から虫や生き物が大好きだった。しかし外に出かけるときに虫かごはいつも持っていなかった。

———採集する気がないから。その場の生き物をそのまま見たくて、何時間でも同じ格好でじっと「観察」していました。そうやって出会った生き物たちに僕は生かされてきたんだと思います。

父が環境微生物学の研究者だったこともあり、将来は研究者になるというイメージを子どものころからすんなりと持っていたと言う。2006年から全米屈指の名門校・コーネル大学に留学し、農業昆虫学の博士号を取得。その後も2015年まで同大学で研究を続けた。研究と並行して、昆虫についての授業も行なっていた。

———このとき、すでにローカルに関わっていたんですね。いろいろな学校に出張授業に行きました。中には入校時に凶器を持っていないか、ボディチェックを受ける学校もありました。そこで、例えば昆虫の構造の話をしたり。人もそうですけど、昆虫も体は筒状なんですね。生活の中で手に入る素材を使って、例えばトイレットペーパーの芯にいろんなものをつけて、「これが昆虫なんだよ」って。みんな目をキラキラさせていました。
他にも地元や州の農業祭など、昆虫について語れる機会には可能な限り出向きました。その後、「あなたのおかげで昆虫に興味を持った」って言ってコーネル大学の昆虫学科に入ってきた子がいました。そのとき、こんなふうにバトンを受け渡していくこともできるんだなと思いました。人と関わることの価値をアメリカでの時間が教えてくれたかもしれません。

そんな瀬戸さんが日本に戻ってきたのは2016年。

———それまでは、人間って嘘をつくし裏切るしめんどくさいって思ってたんですけど(笑)、博士号を取る直前に子どもが生まれて。人間っておもしろいな、この子が育っていくところを全部見たいなと思ったんです。でも、そういう仕事ってないんですよね。だから、自分で仕事をつくってみようと思いました。

瀬戸昌宣さん

瀬戸昌宣さん