アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#124
2023.09

千年に点を打つ 土のデザイン

3 焼きもの×福祉×場 千年の先へ
3)創作活動の始まり 掘ったら粘土が
ワークセンターかじま1

障がい者の就労支援を行う福祉施設「ワークセンターかじま」(以下、かじま)。約40名の利用者がそれぞれのペースで通いながら、仕事をして、余暇の活動も行う空間だ。前々から福祉に興味のあった高橋さんは、2019年から週1回、勤務している。
最初に、施設内を見学させてもらった。保育園だったという建物のレイアウトを生かして、各室ごとに利用者たちが仕事に励んでいる。仕事の内容は、大きくは宅配弁当、焼き菓子の製造、自動車部品等の受注する加工作業、表現・創作活動の4つ。作業によって雰囲気はそれぞれだが、どの部屋でも老若男女が熱心に、目の前のことに集中している。自動車部品のかしめ(部品の接合)は正確に、土からつくる泥団子は重さを1グラム単位で調整する。こうした細やかな作業もあれば、モチーフを生み出して木彫する、紙に描くなど、のびのびとした創造もある。
高橋さんは、彼らに明るく声をかけながら、各室をまわる。これ見て、読んでみて、と駆け寄ってくる利用者もいる。利用者たちに信頼され、慕われていることが伝わってくる。
かじまが掲げるのは「生きる 働く 楽しく くらす」こと。利用者とともに行う仕事を 「tokotoko」と名付けた。常滑のとこ、とことこ歩くのとこ。「トコトコ」とカタカナにすると「日日」とも読める。地域のなかで、利用者がすこやかに働き、いきいきと暮らしてほしい、そしてひとりひとりの日々を大切に過ごしてほしい、という願いが込められている。

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ワークセンターかじまは社会福祉法人常滑市社会福祉協議会就労継続支援B型事業所で、利用者と雇用契約は結ばない形態

高橋さんがかじまに定期的に通うようになったのは、施設長の桜庭幸恵さんたちに声をかけられたことがきっかけだった。

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施設長の桜庭幸恵さん(左)と中村陽子さん(右)

———私たちが「高橋さんが週1で来てくれたら嬉しいな」って話したら、高橋さんが前向きに考えてくださって。その前から、運営母体である常滑市社協の拠点の改修や、行政との市内で改修した古着の活用プロジェクトで関わりながらやっていたけれど、私たちが思う利用者さんができることと、高橋さんの思うできることが一致していないときがあって、摺り合わせが必要だなって。こちらの課題などももっと知ってもらいたいし、利用者さんと関わることで見えてくるものがあるかもしれないから、いいねって。実際に入ってもらうようになって、関係性が築けて、より近しくなれたと思っています。(桜庭)

———ここでは、流れている時間が全然違うんですよ。忙しいことを抱えていても、気持ちが1回リセットされるというか。自分の体内時計がすごくゆっくりになるんです。「ケア」の視点を持てたことは、自分にとってすごく大きいと思っています。(高橋)

高橋さんが通ってくることは、かじまに大きな変化をもたらすことになる。デザイナーとしての豊富なアイデアと朗らかな人柄で、まずは、できるところからものづくりの活動を始めていった。

———高橋さんが来るようになってから、ものづくりが好きって気持ちが芽生える利用者さんが出てきて。元々眠っていた力。
かじまはお弁当事業を軸としてすごく忙しく仕事をしていて。工賃が全国平均で月16000円なんですけど、かじまは今平均3万円支払っています。利用者さんにとってはそれでも少ないですが、そういう軸でやっています。なかなか日中にアート活動をする時間が取れないんです。
そういうなかで、高橋さんは、いろいろやってくださって。コロナ禍のときにかじまの空いた時間を利用して、(施設にある)お店の雰囲気を明るくしようって利用者さんと一緒にペンキを塗ってくれたり、土を掘って塀をつくってみたりとか。(桜庭)

そこで、高橋さんは思わぬ発見をする。土を掘ったときに出てきたのは、焼きものに使えるかじまの「粘土」だった。

———フェンスの基礎を入れるために穴を掘ったら、60cmのところから粘土が出てきたんです。(鯉江)明さんのところで出る土にも似ていて。「焼きものの土でものづくり」というスイッチが入って、これでできることはないかって、陶土染めを始めたりしました。土で布を染めて、バッグをつくったりしたんです。
ちょうどその頃、たんぽぽの家(*)から、福祉と伝統を掛け合わせた企画展示を常滑でできないか、と言われて。いろんなタイミングが重なって、「NEW TRADITIONAL展 in 常滑」をディレクションすることになりました。

かじまにゆっくりなじもうとしていた高橋さんにとって、急速な展開は迷いもあったが、最終的に、常滑の陶芸・陶業と、かじまの取り組みをかたちにすることを引き受ける。
こうして実現したのが「滑らかな粘土の床が、丘陵に広がる舞台の上で  NEW TRADITIONAL展 in 常滑」(INAXライブミュージアム 土・どろんこ館)である。2021年3月、高橋さんがかじまに通いうようになって2年足らず。敷地内で粘土を掘り出したことをきっかけに、大きな展開が始まった。

*……アートプロジェクトを中心に、障がいのある人たちの場づくりを実践する市民団体。奈良市を拠点とするが、各地の施設などを結び、多彩に活動している。

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