アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#123
2023.08

千年に点を打つ 土のデザイン

2 土から生み直す 常滑の底力
7)子どもの愛着を育む 山源陶苑2

2015年、「TEA FAMILY」ラストの展示会は常滑で行われた。会場は優次さんが開いた「TOKONAME STORE」。元は原料置場だった場所を、知人や友人の助けを借りながら、できる限り自分たちで改装してつくったスペースだ。広い空間には、自社製品を扱う店、カフェ、陶芸の体験教室ができる3つの白い小屋が建つ。他にありそうでない取り合わせが新鮮で、素朴ながら格好良い。
ここはまた、まわりの人たちの善意でつくることができた場所でもある。亡くなった型屋さんが使っていた台に、知り合いの焼きもの屋さんが工場を壊すときに譲り受けた什器。それらが驚くほどうまくはまった。

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倉庫と三角屋根の白い小屋は好相性 / 奇跡的にうまくはまった什器や、サンダーで削り、家族やスタッフとペンキを塗った台。大切ないただきものだ / 陶芸教室は連日のように開催。子どもにも大人にも大人気 / 常滑市民の憩いの場でもある

「TOKONAME STORE」を開いてから、優次さんの意識は地域に向かうようになった。窯業が衰退する中で、自社だけよくなることはあり得ない。そして、10年、20年、50年先を考えると、最終的に幹になるのは常滑の子どもたちだ、と。幹を太くし、木を高くしていきたい。
その気持ちの表れのひとつが、「世界に一つだけのお茶碗プロジェクト」である。子どもたちが自分の茶碗を自分でつくる、という試みだ。焼きものの産地ならではのユニークな発想ではないだろうか。

TOKONAME STOREに子どもを招き、それぞれが「たたら成形」(*)で茶碗のかたちをつくる。それらをTOKONAME STOREで焼いて、後日学校に届ける。子どもたちはそれで給食を食べたり、持ち帰って家でご飯を食べたりする。
プロジェクトは広がり、市内の幼稚園や小学校、中学校の特別支援学級などにも出向くようになった。2017年10月から2021年8月までで、1883名の子どもたちが茶碗づくりを経験している現在では、市内の子どもたちのほとんどが、学校を卒業するまでに茶碗をつくっている。

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TOKONAME STOREの壁面。子どもたちの笑顔が光る / 茶碗にかける釉薬の色を選ぶ、土で表面に模様をつけるなど、子どもたちが楽しめるよう工夫を凝らす

———自分が子どもの頃、汗水たらして必死に働く親の背中を見てかっこいいなって思ったし、常滑地域がよくなるというところまでは難しいですけど、地域の子どもたちに楽しく生活してほしい。そして、焼きもの業界の人間である僕は、焼きものを身近に感じてもらいたいし、本質的なところを丁寧に伝えていきたいな、と。
お茶碗プロジェクトの最終的な目標は、子どもたちが親元を離れたときに「俺は自分でつくった茶碗で食べていた。常滑ってそういうとこだぜ」って言ってもらえること。茶碗をつくった子どもが大人になって、「今東京に住んでるけど、自分の子どもにもつくらせたい」とか。焼きものが芯にあって地域がどうよくなっていくかを考えたい。

土から自分で茶碗をつくり、その茶碗でご飯を食べる。
子どもたちにとっては、自分たちの暮らす常滑を知ることにもつながる。それはまた、いつしか人間が外れてしまった、自然の循環に再び入り直すきっかけとなるのかもしれない。
優次さんの言葉に、高橋さんが深くうなずく。

———常滑はそれができる可能性のある場所なんですよ。誰かが一人暮らしする時に実家の器を持っていって、それで気持ちが落ち着いたり寂しくなかったりとか、誰かが使っていた器を、その人の子どもが使うとか。そうなっていくと、世代を超えて作り手と使い手の関係が豊かになっていく。 (高橋さん)

自分のつくった茶碗を通して、自分自身に、常滑というまちに、子どもたちが誇りを持つ。
そのことが具体的なかたちを伴って常滑に還ってくるには年月が必要かもしれないが、優次さんは長い目で地道な活動を続けるつもりだ。そして、新たな展開もそこに加わる予定である。

作り手の鯉江明さん、窯元の山源陶苑、問屋の丸よ商店。
常滑の土とかかわる三者との仕事は、高橋さんがひとつの企画をディレクションすることにもつながった。2022年の「Found MUJI 常滑」(**)である。彼らとつくった器などを展示・販売するとともに、常滑の焼きものが生まれる過程もていねいに見せる。また、高橋さんが集めてきた知多半島の古い焼きものや古道具なども出展し、常滑焼の地域性や背景も知ることができる画期的な試みとなった。

———丸よの扱う急須や、山源陶苑の甕。植木鉢、砥石など代表的な常滑焼をセレクト。それと、明さんの薪窯で焼いた焼き締めの器に、明さんのつくり方にインスパイアされて、山源陶苑でつくった、一切混ぜものを入れていない原土でつくった炻器なども販売しました。自然釉がかかった焼きものを、無印のタグをつけて売ったのは初めてだったかもしれません。攻めたFound MUJIになりました。

展示はプロジェクトの旗艦店のFound MUJI 青山を始め、全国18の無印良品とネットストアで展開された。常滑焼が広く注目されるきっかけとなったのではないだろうか。高橋さんが土という素材を始め、常滑焼を広く、深く探究し、さまざまな関係性を積み重ねてきた先の、ひとつの結節点だったと思う。

最終回となる次号では、常滑に生みだされる「場」を中心に、これからの可能性を伝えていきたい。

(*)たたらと呼ばれる板状に薄く伸ばし、棒状に丸めた土で器を形づくる伝統的な焼き物の技法。石膏などでつくった型で成形することも可能で、比較的簡単に自由な造作ができる。
(**)株式会社良品計画による。2022 年 7 月 29 日から 12 月 8 日の器館、北海道から九州まで、全国各地で展開された。

高橋孝治 https://takahashikoji.com
構成・文:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。
写真:津久井珠美(つくい・たまみ)
1976年京都府生まれ。立命館大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。クライアントワーク以外に、人々のポートレートや、森、草花など、自然の撮影を通して、人や自然、写真と向き合いながら作品制作を行っている。https://www.instagram.com/tamamitsukui/
編集:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年東京都生まれ。京都在住。会社勤務を経て2013年よりフリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト等で企画・編集・執筆を行う。編著に『たくましくて美しい糞虫図鑑』『たくましくて美しいウニと共生生物図鑑』(創元社)『小菅幸子 陶器の小さなブローチ』(風土社)など。