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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#122
2023.07

千年に点を打つ 土のデザイン

1 土という素材に潜る 高橋孝治と常滑
5)常滑焼を相対的に知る 六古窯プロジェクト

常滑市の仕事と並行して、高橋さんはさらに主体の大きなプロジェクトにかかわることとになる。
2017年、常滑を含む6つの古窯「六古窯」が文化庁に日本遺産として認定され、「六古窯日本遺産活用協議会」が発足。そのプロジェクトのクリエイティブ・ディレクションを任されたのだ。常滑を飛びだし、日本各地で千年続く窯業を見渡し、つなぐことが高橋さんのミッションとなった。思いもよらない展開は、さらに加速がつく。

「日本六古窯」は、古来の陶磁器窯のうち、中世から現在まで生産が続く代表的な6つの窯(越前、瀬戸、常滑、信楽、丹波、備前)の総称で、1948(昭和23)年頃、古陶磁研究家の小山冨士夫氏により命名された。日本遺産は「地域の活性化や観光振興」を目的とするが、高橋さんはその土地に生きる人々が固有の歴史や文化に目を向ける機会にならないかと考えた。

まずは、それぞれの産地に足を運んだ。窯業が成立した背景や存続の要因を丹念に探り、共通点や特異点を浮き彫りにしていく。そして、作り手やデザイナーなど、各地で焼きものを続ける人たちを訪ね歩き、仕事を見て、話を聞いた。産地内外の研究者にも数多く出会った。

———焼きものの特徴や技法はそれぞれ違いますが、千年続くには、共通する条件があると知りました。常滑と同じように、窯業に適した土が産出し、海運など流通させやすく、窯が築きやすい、というようなことです。消費地である都市に近いということが重要な産地もありました。
そして、千年の間に数々の変化も起こってきたんです。時代に合わせて作られるものを変えていく「節操のなさ」、戦後、安価なプラスチックに押されて代替されて産業が衰退し、経済合理性を求めるうちに、地域性が失われていったこと。後継者が不足し、どこも存続を危機的に捉える人も少なくありません。
その一方で、6つの土地には、伝統に深く学び、技術を体得したり、テストピースや産業遺産のアーカイヴをリデザインしたりと、千年の歴史の中に身をおいてものづくりする方たちもいます。その真摯な態度が私にはとても刺激的で、学びになることでした。

高橋さんは、プロジェクトにあたって発足したクリエイティブ・チームとともに、キャッチコピー、ロゴ、映像、パンフレット、看板などを制作し、六古窯それぞれの作家やデザイナーたちを集めたイベントや、六古窯を紹介する展覧会を企画した。また、六古窯各産地の学芸員の協力のもと、ガイドブックも制作している。まさに、渾身の仕事だと思う。

主体が大きいと、身動きは取りづらい。調整役として、時に「目標が曖昧になる」感覚もあったが、アーカイヴできる成果は残し、各地の同世代の作り手たちにも、行動していこうという機運も生まれた。

このプロジェクトを通して、高橋さんには頼もしい味方ができた。常滑の陶芸家・鯉江明さんである。ふたりで六古窯のある六市町を訪ね、ときには中世で途絶えた古窯も巡り、明さんに土の特徴や、焼成の技術などを実地で教わりながら、高橋さんは焼きものや産地を比較対照しつつ体感していく。おそらくそれは、常滑で土の仕事をするにあたって、高橋さんの背骨となるような体験だったのではないだろうか。

常滑焼を俯瞰し、さらに六古窯を通して常滑をみる。
高橋さんの常滑での仕事は期せずして、大きな主体から始まった。
自身の仕事では、身近なところに主語を置きたい。う実感した高橋さんは、行政の仕事が落ち着く頃には、明さんをはじめ、地元の作り手や伝え手たちとともに、新たな展開を始めていく。まさに、土地に深く潜っていくように。

次号は市内の天竺にある明さんの工房を訪ねるところからスタートしたい。

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(*)<旅する、千年、六古窯 火と人、土と人、水と人が出会った風景>プロジェクト……2018年春から「やきもの」を通して、人間としての根源的な営み、人と自然との関わり、ものづくりの根源を再考する取り組みとしてスタート。発足時、クリエイティブチームのアートディレクターは原田祐馬(UMA/design farm)、映像ディレクターは岡篤郎、エディトリアルディレクターは多田智美(MUESUM)、Webディレクターは綿村健(FROTSQUARNEL CO.LTD)、フォトグラファーは加藤晋平

高橋孝治 https://takahashikoji.com
構成・文:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。
写真:津久井珠美(つくい・たまみ)
1976年京都府生まれ。立命館大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。クライアントワーク以外に、人々のポートレートや、森、草花など、自然の撮影を通して、人や自然、写真と向き合いながら作品制作を行っている。https://www.instagram.com/tamamitsukui/
編集:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年東京都生まれ。京都在住。会社勤務を経て2013年よりフリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト等で企画・編集・執筆を行う。編著に『たくましくて美しい糞虫図鑑』『たくましくて美しいウニと共生生物図鑑』(創元社)など。