アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#112
2022.09

食と農の循環をつくりなおす

2 「食農教育」と「学校食」でひらく未来 徳島・神山町

2)「育てる、つくる、食べる、つなぐ」を継続する

フードハブの食育の取り組みは、神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト(つなプロ)」の柱のひとつ「ひとづくり」とも関わり合いながら進められた。樋口さんは、フードハブ共同代表・白桃薫さん(次号で紹介)と連携し、各校の先生たちと一緒に学齢に合わせたプログラムをつくっていった。

———小学校では、ひとつの単元で「育てる」「つくる」「食べる」「つなぐ」をやりきるのではなく、1年生から5年生まで関わるなかで積み重ねていって、最終的にはなんとなく全部経験しているように工夫しました。学校では、6年間ずっと同じ先生が担任をもつことはほとんどありませんが、私は6年間を見ることができます、先生たちの意向を汲み取りながら、6年間のプログラムを組めるのは、外部から関わる良さだと思っています。

神山町立神領小学校では20年以上前から学校の前にある田んぼでもち米づくりを行なっていた。協力していたのは、地元で代々農家を営んでおり、のちにフードハブの農業指導長になる白桃茂さん。白桃薫さんのお父さんだ。

茂さんは、子どもの頃に家の手伝いで初めて裸足で田んぼに入ったときの感触を今も忘れていないと言う。そして、その経験こそが今も農業に関わる原点になっている。小学校でのもち米づくりは、「神山の子どもたちが農業に興味をもつきっかけになれば」という思いで続けてきた。もち米の種籾は、白桃家が70年以上自家採種で受け継いできた神山の在来種だ。

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子どもたちに鎌で稲を刈る方法を教えるフードハブ農業長の白桃茂さん(写真提供:フードハブ)

フードハブが関わるようになってからは、化学肥料と農薬の使用をなくし、5年生が収穫した種籾を次年度生(4年生)が引き継ぐことに。さらに、農家さんから「塩水選」という昔ながらの種籾の選別方法を教わって、種まきも一緒にやることにした。低学年では、たとえば1年生は冬野菜づくり、2年生は土づくりから取り組むミニトマト栽培などを体験する。収穫後のプロセスも面白い。1年生はかま屋に野菜を納品し、その代金で後日ランチを食べに行く。2年生はかま屋前で野菜を販売。そのトマトで、かまパンの職人はピザをつくった。まさしく小さな農家さんそのものである。

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自分たちが育てた野菜でつくられたかま屋のランチを「いただきます」/ 子どもたちが育てたトマトは、かまパン職人の手でピザになった(写真提供:フードハブ)

3年生は国語で学んだ「すがたをかえる大豆」を「自分たちでもやってみたい」という声に応えるかたちで、大豆を育てて豆腐をつくる授業が生まれた。今年度からは、新たに広野小学校で自分たちで育てた大豆で味噌づくりがはじまった。いずれも、子どもたちに農業や料理を教えるのは、フードハブのメンバーや町内の農家さん、隣村の豆腐屋さんなど、地域の大人たちである。

農家さんに教えてもらいながら「農業かっこいい!」と目を輝かせたり、料理人から真剣に調理を教わったりする子どもたちの姿に、「ワクワクが止まらないんです」と樋口さん。そのワクワクこそが、樋口さんが地域と学校をつなぐために奔走する、原動力になっているのだと思う。