アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#106
2022.03

子どもが育つ、大人も育つ

4 子どもと大人と、みんなで学び合うために 京都市・にわにわ(前編)
4)「たどり着くまで」の豊かさ

散歩は、小山田さんの学びに対する考え方がよくあらわれている活動だ。散歩は目的地に着くことよりも、そこにたどり着くまでの過程が大切だと、小山田さんは言う。

———企画としてわかりやすくするために、「今日は美術館に行こう」といった目的地はつくるのですが、僕の意識としては、実は美術館に行くまでの散歩道の方が大事だったりします。その過程のなかにこそ、気づきがたくさんあるからです。また、歩くとき、「今日はお前が隊長な」って言ったりして、年上が年下の面倒を見るようになんとなく促しながらやっています。そしてときどき、「列になって歩くときはどうしたらいいと思う?」「一番年上がしんがりに来なあかん」といった声かけをして、歩きながらどうしたらいいかを考えてもらうようにしています。そうすると、子どもたちがお互いに声を掛け合うようになったり、また、下の子たちは上の子に「おにいちゃん!」「おねえちゃん!」って言うようになったりして、子ども同士の関係性もできていきます。

そして子どもたちは、このような企画するとその後、少なからず変化を示すという。

———1回散歩に行ったからといってなにかがぐっと伸びるわけではないけれど、コミュニケーションの質は明らかに変わります。会話が増えるし、レスポンスもよくなる。その結果、その子の事情や状態もよくわかるようになるから、親御さんともいろんな話ができるようになるんです。特に幼児さんの場合は、親御さんにも散歩に参加してもらうので、歩くときにも親御さんの方ともゆっくり話をすることができるし、そのなかで、お互いにいろんなことを知ることができるんです。また、くもんに来る子には、当たり前ですが、さまざまな特徴のある子も居るのですが、そういった核心に入るような話も、一緒に散歩などをした後だったら、ぐっと話しやすくなる。そして、そういう子たちの特徴をポジティブに理解しようという気持ちを親と共有できるようになるのを感じます。

みなで散歩をすることから、それぞれが気づきを得て、互いに関係性をつくっていく。そこに生まれるつながりの豊かさを、小山田さんは感じている。そうしたなかに、学校では得られない大切な学びがある、と。
一方、「大人も変わっていかないといけない」と小山田さんは言う。次号では小山田さんの原点を辿りながら、「子どもが育つ、大人も育つ」ことについて考えたい。

にわにわの「ニワ」は、アミニズムに由来する。山や川のように、人間だけでなくさまざまな動物や魂が寄ってくる場所だ。小山田さんは、積極的に出かけることで周辺の自然もふくめてにわにわだと考えている

小山田さんは、積極的に出かけることで周辺の自然もふくめてにわにわだと考えているという(写真提供:小山田徹)

にわにわ
https://niwaniwa.org/?page_id=22
取材・文:近藤雄生(こんどう・ゆうき)
1976(昭和51)年東京都生れ。東京大学工学部卒業、同大学院修了。2003年、旅をしながら文章を書いて暮らそうと、結婚直後に妻とともに日本を発つ。 オーストラリア、東南アジア、中国、ユーラシア大陸で、約5年半の間、旅・定住を繰り返しながら月刊誌や週刊誌にルポルタージュなどを寄稿。2008年に帰国、以来京都市在住。著書に『遊牧夫婦』シリーズ(ミシマ社/角川文庫)、『旅に出よう』(岩波ジュニア新書)、吃音 伝えられないもどかしさ』(新潮社)、最新刊『まだ見ぬあの地へ 旅すること、書くこと、生きること』(産業編集センター)など。大谷大学/京都芸術大学非常勤講師、理系ライター集団「チーム・パスカル」メンバー。https://www.yukikondo.jp/
写真:吉田亮人(よしだ・あきひと)
1980年宮崎県生まれ。京都市在住。滋賀大学教育学部障害児学科卒業後、タイにて日本語教師として現地の大学に1年間勤務。帰国後、小学校教員として6年間勤務し、退職。2010年よりフリーの写真家として活動開始。雑誌・広告を中心に活動しながら、作品制作を行う。『ナショナルジオグラフィック日本版』をはじめ、主要雑誌に作品を発表すると共に、写真展も精力的に行う。日経ナショナルジオグラフィック写真賞ピープル部門最優秀賞(2016)、コニカミノルタ・フォトプレミオ年度大賞(2014)など、受賞多数。写真集『Brick Yard』『Tannery』『The Absence of Two』などを発行。http://www.akihito-yoshida.com
編集:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992
年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。
ディレクション:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
編集と執筆。出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の編集・執筆を中心に、それらに関連した展示やイベント、文章表現や編集のワークショップ主宰など。編著に『標本の本-京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)や限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。