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アネモメトリ -風の手帖-

空を描く 週変わりコラム、リレーコラム

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#261

掛け合い
― 川合健太

掛け合い

(2018.04.01公開)

アネモメトリの特集記事(#36、37)に「現代の奇人」と紹介されている松井利夫先生から展覧会のDMをいただいた。

奇人は3月のある日、颯爽と僕の前に現れておもむろにバッグを開き、DM1枚を取り出して「こんなんやんねん」と手渡して、あっという間に去っていった。それから数日して、京都の古門前付近を通りがかったので、展覧会を開催している艸居(SOKYO GALLERY)にお邪魔した。

展覧会のタイトルは「TEA FOR TWO」。イタリアのファウスト・サルビさんと松井先生、陶芸家の二人展である。「TEA FOR TWO」とは、1925年にヒットしたドリス・デイの曲名にもある。一体どんな意図があるのだろうと、ギャラリーに入ると、なるほど、お茶を飲むためのお茶碗と思しき物体がたくさん置かれている。お茶碗と思しきと書いたのは、はたしてこれはお茶碗なのか、玩具なのか、溶岩なのか、一見よくわからない外観をしているからで、何となくお茶碗とわかるボウル状になっているものがいくつもあった。そんな奇妙な物体との接し方に戸惑っていると、ギャラリーの方が手に取りながら説明してくれた。サルビさんの作品は単体ではお皿やお茶碗、ボウルといった機能を持ちながらも、それらが集合すると一つのオブジェになるように考えられていて、自由に組み合わせ方を楽しめる。バランスさえ間違わなければ組み合わせ方は何通りもあり、石灯籠や、チェスの駒のような形にもなる。マヨリカ焼きの鮮やかな色も美しく、写真に撮るとチョコレートのお菓子のようにも見える。中には床に転がして良いものもあるそうで、陶器の概念がひっくり返る。一方、松井先生の作品はゴツゴツとした外観で、その内側は漆が塗り重ねられてツヤツヤになっている陶漆土器。

「この技法は五千年以上昔の縄文時代中期に始まる世界でも最初期の漆と土器の混合技法です。漆を湿潤塗り重ねることで、装飾性のみならず、土器の強度を増し、吸水性や熱伝導を抑え抗菌性も付加することが出来ます。」(展覧会図録「アートと考古学展」京都文化博物館 2016より)

ゴツゴツしているのは、地面の穴を雌型として型抜きされているからで、地層の表面をそのまま写し取ったような迫力のある質感になっている。展覧会のオープニングレセプションでは、ギャラリーの2階にあるお茶室でティーセレモニーがあったそうで、この陶漆土器でもお茶を喫したとのこと。それはそれは、地球に口づけして、漆黒の闇から緑色したマグマが体内に流れ込むような感じなのかなと、過剰な想像を巡らせてみた。

帰り際、通りに面したガラスウィンドウに置かれた作品をあらためて見た。楕円の鏡の上には二人の作品が一点づつ鎮座している。そういえば、楕円は二定点からの距離の和が一定な点の軌跡であったか。全く異質な二人の作品は、付かず離れず掛け合いながら、ガラスの向こうに暮れる京都の街の風景に溶け込みはじめていた。

掛け合ふて生まれた春の星ふたつ 牛蒡

画像:ギャラリーの展示風景(筆者撮影)

※展覧会はすでに終了しています。
TEA FOR TWO
松井利夫&ファウスト・サルビ
2018年3月3日(土)〜3月31日(土)
SOKYO GALLERY艸居
ギャラリーの詳細は以下のサイトをご参照ください。
http://gallery-sokyo.jp/