(2017.04.16公開)
2017年4月1日(日)、エープリルフールの夕方、東京・神宮外苑にある外苑キャンパスで「第一回訪問俳句団活動報告会」を開催した。遡ること2016年12月2日(金)、フランス・パリ市にあるパリ日本文化会館で訪問俳句団*が実施したSalon de haïkus(俳句ワークショップ「パリパリ句会」)の報告会である。
「パリパリ句会」はその名の通り、パリという街の名前からパリパリというオノマトペを連想して生まれた句会で、日本のソウルフードともいえるおにぎりを握り、そこにパリパリの海苔を巻いて食べ、俳句を詠み、句会を行う。おにぎりを握る、食べるという体験を共有すれば、仏語を話せないわれわれと、日本語を話せないパリの人たちとの言葉の壁はたちまち越えられるだろうという楽観的な考えと、俳句を詠む前に五感を通した体験をすることで、そこで感じたことやオノマトペを理解して俳句に詠んでもらえるのではないかという考えが企画のもとになっている。本番当日、日本から持参したその秋に収穫された新米を炊き上げ、ツヤツヤの白米を手のひらにのせておにぎりのつくり方をデモンストレーションすると、小学生から大人まで、総勢17名のパリジャン、パリジェンヌたちも、われ先にと嬉々としておにぎりを握った。炊きたてごはんのあまりの熱さに「手のひらを火傷したわ!」と驚くご婦人や、「海苔からお米がはみ出したらどうするの?」と不安そうな顔で聞いてくる人もいたりして、自らの手のひらで食べ物をつくり出す行為によって普段とは異なる感覚が刺激されているようだった。おにぎりをつくり終えると、皆で席について「手を合わせて、いただきます」。両手でおにぎりをしっかりと支えながらかぶりつく。お互いにおにぎりをほお張ってモグモグしている様子を見ながら食べ終えて「手を合わせて、ごちそうさまでした」。続けて句会に移り、仏語で作句する際の参考例として、ポール・クローデルの詩の一部を紹介する。
ほのかな紅(くれない)
それは 色といふより
ひとつの吐息
Un certain rose
Qui est moins une couleur
Qu’ une respiration
(『ひびきあう詩心 俳句とフランスの詩人たち』芳賀徹著 TBSブリタニカ刊より)
このクローデルの詩を仏語で読み上げてもらうと、不思議と俳句の五・七・五の17音のリズムと重なるため、こうしたリズム感も気に留めて作句してもらう。そして、およそ20分で投句を終え、いよいよ選句と披講。通訳のスロコンブ都さんが全ての句を読み上げて、意味を翻訳してくれる。皆、言葉の響きと意味を感じ取るように耳を澄ます。全ての句にとても豊かな詩心とオリジナリティが感じられて、ここでの体験をそれぞれの言葉で紡いでくれていることがうれしくなる。
さて、「第一回訪問俳句団活動報告会」では、こうした一連の流れで詠まれた仏語の俳句をスロコンブ都さんに音声データと直訳に変換いただき、それにたいして俳人の大高翔さんが意訳するという構成でアレンジを加えたものを紹介した。
あぁ、パリの人たちの手のひらから生まれた一編の詩は、まるであのときの時間と空間がぎゅっと詰め込まれたおにぎりのよう。
<原文>
Le nuage de riz
a quitté l’île à l’automne
Pour me nourrir à l’aube de l’hiver
―PHYSALIS
(※ 音声を再生するには、時間表示の左側をクリックしてください。)
<直訳文>
ごはんの雲が
秋に島を離れた
冬の明け方私を食べさせるために
<意訳文>
新米の雲秋津島飛び立てり
<原文>
Pari nori noir,
Les grains blancs étincellent.
Chaleur de l’hiver.
―KURI
(※ 音声を再生するには、時間表示の左側をクリックしてください。)
<直訳文>
パリ黒い海苔
白い粒光る
冬の暖かさ
<意訳文>
パリパリの海苔へ新米艶めきぬ
【協力】
音声、直訳:スロコンブ都
意訳:大高翔
現地サポート:ガネム・モハメド、鈴木絵巳
写真:パリパリ句会当日の会場から見たエッフェル塔(撮影:中山和也)
*訪問俳句団とは
2013年5月21日(火)、全世界的に俳句で異文化交流を図るため、俳人・大高翔と空間デザイナー・川合健太が結成した俳句ユニット。『訪問俳句』と称して陶芸家、アートディレクター、作家、水墨画家らをゲストに招き、ゲストの出題をもとに参加者と俳句を創作する、「他の表現領域との融合を試みる」ワークショップや、歴史的な俳人にゆかりのある地域を訪問し、参加者と俳人の気分で創作する、「過去と現在のつながりに思いを馳せる」ワークショップを開催しています。
HP:https://shootaka.jimdo.com/action/