(2015.05.31公開)
Memories On The Lake / あかりがつなぐ記憶2013 from neconohitomi on Vimeo.
毎年夏が近づくと、恒例のイベントの準備で気ぜわしくなる。今年はなんやかやで仕事を減らしてもらったが、やはり上昇する気温のせいで心のどこかは既にダムの村に行っている。
このイベントというのは、2005年から京都は桂川の上流にある日吉ダムでやっているインスタレーションで、もう10年になる。夜の漆黒の湖面に水没した村の広がりを淡々と「あかり」で示していくものだ。
今年は8月8日(土)9日(日)の二晩を予定している。是非ご覧いただきたい。詳細についてはまたご案内いたすとして、今回はその記録映像と、かつて書いたそのコンセプトをご紹介しよう。
映像は、2013年度に映像制作会社「つむぎや」が撮影、編集してくださったもの。サウンドトラックには山崎久勝氏による水中録音を素材としたCube(K5)氏による音楽が使われている。
紹介する文章のひとつめは、2005年に原型が書かれ、2011年にアップデートされたコンセプトである。私が中心になってまとめたものである。表現することと社会的なテーマを扱うことについてのチーム内での葛藤と議論が、特に追加された後半部に色濃く現れている。
ふたつめは2009年にキョートット出版から出た「天若湖アートプロジェクト/あかりがつなぐ記憶」の巻頭言である。これはNPO法人アート・プランまぜまぜ理事長のさとうひさゑさんが中心になってまとめたもの。こちらはむしろ川と人の関わりが意識の中心にある、メッセージ性の高いものとなっていると思う。
「あかり」とその映像は、それ自体独立した経験を与えるものだ。一度ご覧になったうえで、これらのテキストを併せ読んでいただければ幸いである。そして、今夏の現場でその空間的な広がりを実感し、そこからまた考えていただければと思う。
天若湖アートプロジェクトの目指すもの(2011年度改訂)
日吉ダムは、桂川流域の治水と京阪神地域での水需要の増大を受けて、平成10年(1998)に完成したばかりの新しいダムです。「地域に開かれたダム」のコンセプトのもと、温泉等多くの施設が建設され、多くの来訪者に利用されています。平成16年(2004)には、湖面利用のルールも定められ、新しい公共空間である湖面が幅広く市民に開放されることとなりました。
しかし、新しい水面である天若湖は、地域の歴史文化に根ざした人との関わりを持っていません。バス釣りに代表される釣り客のボートが見られる他には、湖面を利用する人はあまり見られません。
かつてこの地には、桂川とともに生きた集落がありました。昭和63年(1988)に日吉町によって編まれた「日吉ダム水没地区文化財調査報告書」は、今は平坦な水面となっているこの場所に、豊かな生活文化をもった村があったことを伝えています。そして、地域の自然とともにあったその集落が湖底に消えたのは、比較的最近のことなのです。
わたしたちは、この真新しい場所に昔に負けないくらいの生き生きとした息吹を取り戻したい、と考えます。そして、そのためには、地域の方々の思いとダムの意味を、川とのつきあい方や考え方も異なる流域のさまざまな人々が知り、共有しながら、この場所に触れていくほかないのだと考えます。
しかし上下流の人々の間をつなぐには、ことばだけでは不十分です。その環境を生きてきた人々の実感と、それを消費してきた人々の一般論とは、それらがことばにされる時、すれちがってしまうことが多いのです。それを越えるものとして、私たちはアートを見つけました。
アートは結論めいたものを示すものではありません。また地域の問題を解決するものでもありません。しかし、生きた時代やことば、属している集団や共同体を超えて問いかけます。それは社会に現れたり潜在したりしている、さまざまな課題に気づきを与え、同時に人々を繋いでいく力を持ちます。
天若湖アートプロジェクトは、風景とアートの力によって、水没地域、地元そして流域のそれぞれの人々が、ともにこの場所に触れ、地域固有の魅力や課題を感じ、それについて考える機会を創り出します。この経験は上流と下流との共感を創り出し、天若、日吉地域のみならず桂川流域、ひいては淀川流域全体の環境への、人々の意識を更新していくものと考えます。
アーティストだけでなく、むしろ市民自身が新しい天若湖の姿を生み出し、提示し続ける。そうしたかつてないアートのかたち、流域連携のかたちが、天若湖アートプロジェクトなのです。(2011年5月)
天若湖アートプロジェクト/あかりがつなぐ記憶 序文
暖かくなった夜の風に草の匂いが混じる
この季節がやってくると
もう一度あのあかりが見たくなるダム湖に浮かぶ静かなあかり
空には満点の星ほんの二昔前まで
そこに天若という集落があった
年に一度 八月の夜
わたしたちは家々のあかりをダム湖面に浮かべる昔の天若を見たこともない他所者が
なぜそんなことに一所懸命になるのか
その問いの答えはひとつではないこのアートプロジェクトは
桂川の上下流交流
ダム湖面の市民的利用をテーマにはじまった「アートと流域連携の出会いとそれから」
天若湖アートプロジェクトでのできごとは
立場や世代を超え人々の心を動かすだろうと信じているこれからもダムはつくられる
そして中止されることも
役割を終えることもある今 この国で蛇口をひねれば水が飲め
洪水の怖さを忘れている人は
ダムと無関係ではないしかし
川との関わり方を忘れた街に住む人に
その実感はない
堰き止められたのは川の流れだけだっただろうか白いダムと真っ青な空
天若湖の水は太陽の光を受けて輝き
空高くからひばりの声が降ってくる
今日もひよし温泉は
休日を過ごす人たちで賑わっているわたしたちは
天若のあかりをダム湖にともす
天若湖アートプロジェクト
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天若湖アートプロジェクトFacebookページ
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