(2017.01.08公開)
渋谷や新宿といった、いわゆるターミナル駅に降り立つと、ロールプレイングゲームのダンジョンといった様相で、目的地はおろか、自分の居場所までわからなくなることがしばしばある。人混みの中、迷うストレスはとてもつらいものがある。そのため、どうやったらターミナル駅を利用しないで済むか、行程を考えるほどである。
ターミナル駅のわかりにくさは、様々に接続している各交通事業者の路線と構内空間が入り組んで構成されている空間構造の複雑さがその第一の原因ではあるが、その複雑さを解消するために整備しているはずの案内誘導表示がわかりにくいこともストレスを増大させている大きな要因だろう。この案内誘導標識、各交通事業者ごとに整備されているために、情報が連携されていない、設置場所、文字の大きさ、色といったレギュレーションが統一されていないのだ。JRの敷地内で表示を見ながら移動し、気が付くとその表示がない。見渡すと新たな表示が出てきて、私鉄の敷地に入ったことが意識される。「駅空間」という利用者=ユーザー目線に立てば、JRだろうが私鉄だろうが知ったことじゃない。どうして同じ表示ルールで統一した情報提供ができないのだろうか。どうして縦割りの事業者区分でしか整備ができないのだろうか。
そんなある日、こうしたかねてからの疑問と不満に一石を投じるニュースが眼に飛び込んできた。
衛星利用測位システム(GPS)の情報が届きにくい駅構内や地下街で、周辺に取り付けた発信器などを利用してスマートフォンで道案内できるかどうかの実証実験が二十一日、新宿区の新宿駅周辺で始まる。屋外と地下街を行き来した場合にスムーズに位置が分かるかなどを確認し、利便性向上に役立てる。
(東京新聞、2016年12月16日、
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokyo/list/201612/CK2016121602000164.html )
同記事によれば、新宿駅はJR、私鉄、東京メトロ、都営地下鉄が乗り入れ、複雑な構造で迷いやすいことから、都と区、交通事業者で構成される「新宿ターミナル協議会」を設置し、デザインがまちまちだった案内表示を統一するといった対策を進めているとのことだ。スマートフォンの道案内実験に加え、これまで交通事業者がそれぞれで製作していた駅構内の地図を協議会で統一するらしい。この地図は実験で使用するほか、紙に印刷して無料で配布、意見募集も行い、今後に反映する。
利用者目線で地図を統一するだけでなく、実施しながら意見募集を行って、逐次改善していこうという姿勢が大変素晴らしい。
東京都都市整備局のホームページには
新宿駅及びその周辺部を対象として、利用者本位のターミナルの実現に向け、多様な関係者が連携して利便性の向上に取り組むことを目的として、新宿ターミナル協議会を設置しています。
(http://www.toshiseibi.metro.tokyo.jp/kiban/shinjuku_terminal/index.html)
とあり、「利用者本位」という言葉がこうした公共空間で使われるようになったことはとても意義のあることだ。協議会設置要綱を見ると、専門家の欄に「赤瀬達三」氏の名前があった。交通空間の案内表示システムの第一人者だ。赤瀬氏も、これまでの活動の中で、交通事業者の壁に幾度もぶつかったことだろう。その問題意識が今回の事業で活かされることを期待したい。
公共空間には事業者の境界という目に見えないバリアが存在している。使う側の私たちは、不具合に遭遇しながら無自覚になって生活していることがほとんどではないだろうか。公共空間のユーザー中心は始まったばかりだ。私たち利用者は、こうした動きに敏感でありたい。そして、利用者目線で不具合を感じたり、おかしいと思ったことに声をあげられる社会になっていってほしいと願う。