(2016.11.27公開)
自宅のポストを開けると、ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)から賑やかな絵の描かれたDMが届いていた。第356回企画展『榎本了壱コーカイ記』。思わずポストの前で「あっ、エノモト先生…。」と口走った。そう、エノモト先生とは2010年4月にはじめてお会いした。百戦錬磨の敏腕アートディレクターという一方的なイメージを持っていたので、お会いするまではどんな切れ者なのだろうとドキドキしていたことを覚えている。実際に会ったエノモト先生は初対面でもダジャレを連発してきて、うろたえるこちらをニヤニヤしながら見ていて、そうかと思えば、話しながらも左手は常に動かしていて、カリカリと一文字一文字を刻むように、小さな愛くるしい字を書き綴りながら、大きな話を進める人だった。何かこう、頭と手が直結しているみたいで、全身からアイデアが溢れ出しているような、滲み出ているような印象だった。その後もエノモト先生とは何度かお会いし、事務所にもうかがった。事務所の名前は「株式会社アタマトテ・インターナショナル」。トイレの中にまでエノモトワールドが追いかけてくる不思議な空間だった。
『榎本了壱コーカイ記』。やっぱりダジャレのエノモト先生だけあって、「コーカイ記」のコーカイは、航海、公開、後悔などいろんな意味を掛け合わせているみたいで、DMを見ているだけで、こちらの妄想も膨らみ、この展覧会を見てしまったら自分のやっていることの力不足を痛感するかもしれないな。いや、逆に元気をもらえるかもしれないな。とか、あれこれ考えてしまう。おそらく展覧会場には、恐ろしいくらいに頭と手を動かして作られ続けてきた、そして今も作り続けられている、おびただしい量の作品がびっしりと展示してあることだろう。きっとエノモト先生の頭の中に入っていけるような、広大なエノモト海の中に身を投じることができるような、そんな空間になっているのだろう。展覧会のDMを前にして、展覧会に足を運ぶ前からして、まだ見てもいない展覧会のことをあれこれ書き伝えるのもおかしな話だが、なぜだかこの展覧会についてはそうした記述がぴったりくるような気がしてならない。コーカイの前に妄想を膨らませる必要があるのだ。
そういえば、與謝蕪村の発句(俳句)にエノモト先生(俳号:バソン)が付句した面白い付合がある。
花に来て花にいねぶるいとま哉
開けてはならぬ玉手箱の中
花見に来て一人酒を呑んでるうち、気兼ねもなく、寝入ってしまっている人が幾人もいます。花影にいねぶる気持ち良さそうな顔を見ていると、深山の花のお城に招かれて、酒や舞いやを振るまわれてでもいるのでしょうか。いいですね。でも帰りの手土産にもらった玉手箱は、決して開けてはいけませんよ。(『句集 金魚糞集 蕪村師と三百韻』より)
さて、こちらの勝手な妄想もすべて引き受けてくれそうな、展覧会。第356回企画展でもあるので、「見頃」なうちに足を運び、玉手箱を開けてみようではないか。
『榎本了壱コーカイ記』
ギンザ・グラフィック・ギャラリー(ggg)
住所:東京都中央区銀座7-7-2
開催期間:2016年11月11日(金)-12月24日(土)
開館時間:11時-19時
休館:日曜・祝日 入場無料