どこで本を買うか。どの本を買うか迷うことはあれど、本を買う場所について悩んだことがある人は少ないだろう。こう言いつつ、私もしょっちゅう何も考えずにAmazonで本を購入してしまうのだが、せっかくだからお気に入りの本屋を見つけて、そこで購入してみてはどうだろうか。今回は私のお気に入りの本屋として、シスターフッド書店kaninを紹介したい。
京都芸術大学瓜生山キャンパスから南に下ること10分。北白川別当町のバス停近くに、シスターフッド書店kaninという小さなブックカフェがある。すでに様々な雑誌やウェブメディアで取り上げられているため、ご存知の方もいるかもしれない。幼馴染だという二人が店主を務めるこのブックカフェには、フェミニズム、ジェンダーに関する書籍や、女性作家の書籍、店主二人の愛する本が並んでいる。学術書から小説、ZINEまで幅広く取り揃えられており、知らなかった本との出会いが必ずある書店である。
kaninの店内
また、実店舗だけでなくウェブサイトでも本が購入できる。ウェブサイトでは、[kaninのフェミニズム本選書サービス]という選書サービスでの注文も可能だ。何から読んでよいかわからないという方や、知らなかった本に出会いたいという方にはぴったりのサービスだと思う。
時間があるときにKaninにちょくちょく足を運んでは本を購入しているのだが、なかでも私のおすすめはKaninのZINEである。これまでシスターフッド書店Kanin編『離婚って、ふしあわせ?』(2024)とシスターフッド書店Kanin『シスターフッド書店Kaninができるまで』(2025)を購入して読んだのだが、今回はブログのテーマにちなんで、『シスターフッド書店Kaninができるまで』を紹介したい。
このZINEはタイトルの通り、シスターフッド書店Kaninができるまでを描いたものだ。ところどころにジェンダーの問題について考えるきっかけが散りばめられているが、軽快な文体で、ときに笑いをこらえながら楽しく読むことができる。
このZINEで印象的だったことが三つある。一つは、フェミニズムやジェンダーの本を扱った書店を開いた店主というと、フェミニスト活動家や研究者を想像しがちだが、お二人いわく「そうではない」ということ。「アカデミアでも、活動家でもない普通の人が、できることをやる」¹お店なのだという。そのスタンスは、お店の静かでゆるやかな雰囲気にも反映されているように思う。だからこそ、フェミニズムやジェンダーに関心のある人が気軽に訪れやすい場所になっている。
二つ目に印象的だったのは、商工会議所の中小企業診断士の男性に、友達同士で折半してお店を開いても、ケンカして終わりになるだけだと言われたというエピソードだ。店主二人はその男性の言葉を軽く流し、特にトラブルもないまま今もお店を営業している。私自身、ときどき友達と「いつか起業したいな」と言い合ったりするのだが、その度に友達と事業をやると失敗するという真偽不明の言説が脳裏をかすめ、なんとなく具体的に想像するのをやめていた。本当に行動に移すかどうかはさておき(今のところ本当にする予定はありません)、よくわからない一般常識とされるものに左右されず、やりたいことをやる二人の姿には勇気づけられる。
三つ目に印象的だったのは、お店の経営についての記述である。このZINEでは、Kaninの経営状況についても赤裸々に(?)語られている。詳しくは本書を手に取って確認してもらいたいが、こんな書店があったらいいのにという願いを体現してくれているKaninもまた、本が売れなければ続けていくことは難しくなる。だからこそ、お気に入りの本屋で本を買うということが、その書店を応援することに繋がる。私はKaninのようなフェミニズムやジェンダーに関連する本を重点的に扱う書店が存在する社会であってほしいし、小さくても個性がある書店が街中にたくさんある社会であってほしい。そう考えると、どこで本を買うのかという私たちの選択もまた、私たちがどんな社会に住みたいのか、この社会をどんな場所にしていきたいのかを自ら選択することと繋がっていくように思う。それは店主の二人が言う、「普通の人が、できることをやる」ことと近いのかもしれない。
今日届けば明日家に届く、という便利さを完全に放棄することは難しい。ただ、ときどきその便利さを脇に置いて、お気に入りの本屋を、あるいはそのサイトを訪れてみてはどうだろうか。それによって、あなたの行動ひとつひとつが社会を形作るのだという実感が得られるかもしれない。
¹ シスターフッド書店Kanin『シスターフッド書店Kaninができるまで』64頁、2025年。