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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#5
2013.05

新潟 「エフスタイル」がつむぐ、あたたかな「循環」

後編 作り手、売り手、そして伝え手

4.父母の介護から生まれたゴムなし靴下
〜 新潟・くつ下工房(2)

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くつ下工房での取材は、いつしかエフスタイルの新作靴下の打ち合わせへ

上林さんがすごいのは、大手メーカーなら、作る靴下のタイプに合わせて機械を変えるところ、たった1種類の機械でさまざまな靴下を編み分けてしまうところ。それを可能にするのはもちろん、糸や機械についての膨大な知恵と知識だ。

「はき心地」という抽象的なものを職人さんに伝えてイメージ通り作ってもらうことは至難の業だ。その点、上林さんは機械の知識もあり、頭の中にある作りたい靴下のイメージをそのままサンプルに起こすことができる。メンテナンスを続けながら愛用している編み機の部品を作っている会社が徐々になくなっているのが目下の悩みだ。

エフスタイルの「ゴムが入っていない、ふんわりしたはき心地の靴下」は、それまでのくつ下工房の歩み、上林さんが靴下を作る上で大事にしてきたことなどを話していく中で、自然と生まれた。当時、上林さんが体の悪い父母のために個人的に作っていた介護用靴下が、自分ではいても思いのほか楽で気持ちいいという話が出て、それをぜひ健康な人にもはいてもらおう、となったのだ。

実際、「ゴムが入っていない、ふんわりしたはき心地の靴下」をはくと、その伸縮性に驚く。くしゅっとたるませてルーズにはいても、しっかり丈を伸ばしてはいても、ラクなのにずり落ちてこないのだ。その秘密は、緻密に計算された編み目の伸縮性にある。糸に負担をかけない速度でゆっくりやわらかく編み上げ、その後、プレスをかけすぎないことで、締めつけない靴下になっている。その機能性はそのままに、エフスタイルは、カラーリング(糸の染色)とプレーティング(表裏の糸の組み合わせ)をアレンジしていった。試作は幾度にもわたり、商品化するのに半年以上もかかった。時には「ものすごい言い合いになったこともあった」そうだ。

「もうね、正直言って、二人とも小生意気だし(笑)、何度も何度も試作させられて。裏糸が赤で、表糸は黄色にとか、突拍子もないこと言うんだもん(笑)。もう一緒にできないかもしれないと思ったことも、何度もありました。でも、お互い、前に進みたいから言うんですよね。前に進みたいからこそ、遠慮せずに言いたいことを言い合わなくちゃいけないと思った」

エフスタイルの商品は世に出るまでが長い。何度も何度も試作を重ね(当然サンプル作りにも費用がかかる)、時には作り手が根をあげることもある。でも、その代わり、自分たちがいいと納得するものができたらずっと売り続けることを約束する。いいものができればずっと売れ続けると確信しているのだ。

業界では規格外だったゴムなし靴下は、今ではエフスタイルの商品の中でもリピート率の高い、代表作であり定番のロングセラー商品となった。今の上林さんの心境は「やっぱりな」だ。

「この靴下は絶対にいいものだというのはわかっていました。だってうちの父が褒めてくれたのは、後にも先にもこれだけだったから」

今でこそ、商品が生まれる背景をきちんと説明しながら売るといった方法が徐々に浸透してきたが、10年前は、そんなことをしている人も場所も皆無だった。ましてそれが靴下なら、なおさらだった。

「あの頃、私は伝えてくれる人を探していたんですよね。そんな時にエフスタイルに出会った。私はこの人たちに賭けたんだと思います」

上林さんは現在、「手造りくつした達」というホームページをひっそりと運営している。上林さんが感動したこと、困ったこと、悔しいことなどを短い文で書き留めた日々の奮闘ぶりを伝えるブログのほか、五泉市のニット会社やアーティストなどとのコラボレーションから生まれた靴下などが随時報告され、靴下にもこれほどの世界観があるのだと教えられる。その中で、エフスタイルのことが、こんな一文でつづられていた。

「Fスタイルさんが工房のくつした達に光をくれました。やめてしまおうかと思っていた時に、Fスタイルの二人に出会いました。彼女達が、私にくつしたの本当の姿をもう一度与えてくれました。大量ではなく、一つ一つ、しっかりと、使い手の手に渡って行く、ありかた。誰のために何をしているのかと云うこと・・の大切さをね」

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エフスタイルの2人(左)と、くつ下工房の上林希久子さん