アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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#58

フレキシブルダイヤモンドシートと透明衣装ケース
― 藤田匠平

(2017.10.05公開)

私はやきものを作ってそれを展覧会に出品したり、お店で売ってもらったりして生活しているいわゆる陶芸家です。
私の仕事内容には2種類ありまして、ひとは私が1人で作る藤田匠平作品の仕事、もうひとつはやはり陶芸家の山野千里さんと共同でうつわ物を作る「スナ・フジタ」の仕事です。
まず私個人の作品の中心となっているものに「石果」と名付けたシリーズがありますこの作品の特徴は釉薬を何層かに重ねながら焼成した後に研磨して仕上げるところにあると思いますここで必要になってくるのが硬い釉薬を研磨できる道具です。
やきものの表面を研磨することを思いついたのはまだ学生の頃でもう25年以上前になります今の様にインターネットを簡単に利用できるはずもなく道具探しはなかなか大変で、石の彫刻している人に聞いたり砥石屋さんに何度も通って相談しておりました。
欲しかったのは柔らかく曲面に添いながら硬い釉薬面を削れる道具、いわゆるサンドペーパーの様なもの、でも一般的なサンドペーパーでは釉薬には歯が立ちません……が、ありました! それはダイヤモンドの粒子をまぶしつけたフレキシブルダイヤモンドシートというガラスや石を研磨する道具でしたこの道具との出会いで思っていた様な作業が可能になりました。
問題はその価格です。10cm方で6000円~10000円もするは学生にとって大変厳しい値段でしたいや今でも厳しい! しかもいかダイヤモンドと言えど使っていくうちに研げなくなっていくのです御婦人の指とかに光るその輝きは永遠かもしれませんが研磨剤としてのダイヤは意外とその切れ味が持ちません。
そんなわけで、先程述べた様にお値段のこともあるのでこれをチビチビと使っていく事になりますまず10cm方のシートを4分割して5cm方にしますそしてその4隅を1隅ずつシート全体の研磨力が落ちない様に部分的に当てながらチマチマと作業をしています。時々この作業を「スナ・フジタ」のパートナーである山野さんに手伝ってもらうことがあるのですが、彼女は1隅ずつなどと気にする様子もなくシート全面を使って悠々と磨いていくのです「大物だな!」といつも感心させられる一幕です。
さてその「大物」とのコンビで作っている「スナ・フジタ」作品の特徴は結構細かい動物などの絵付けにあると思いますが、その中でもよく使う技法に「色化粧土」といって陶磁器制作用の顔料を粘土と水で溶いたもので絵付けするやりかたがあります。
共同作業の流れとしては、まず、私がロクロや型などを使ってうつわの形を作りますそれにベース色の化粧土を平筆で塗って、丁度絵付けしやすい湿り具合で山野さんにパス(乾燥してしまうと絵付け出来ません)、彼女が絵付けをして乾燥させて焼いて完成! という感じです(ちなみに絵付けは私もします)。
この「丁度良い湿り具合」を保つというのが私の仕事のバカに出来ない部分でして、ここで登場するのがいわゆる「衣装ケース」、どのご家庭にもあるのでは? と思われる透明のアレです。
パスした衣装ケースのフタを開けて彼女の作業のペースを確認して、ロクロ作業や化粧土塗りのペースを決定し、もし先走って作ってしまったのなら乾いてしまわない様に霧吹きでケース内を湿らせたりします。
こんなに衣装ケースのフタを開け閉めする人間は他にいないのでは? と思うくらい毎日「あけしめあけしめ」ですでももし衣装ケースが透明でなかったら外から作品の存在がわからないのでもっと「あけしめ」が増えてたはず! とゾッとしたりしております。
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藤田匠平(ふじた・しょうへい)

略歴
1968 和歌山県生まれ
1995 京都市立芸術大学大学院工芸科修了
1996 イギリス留学(Edinburgh College of Art)
各地で個展開催、スナ・フジタも各地で個展開催。