アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

手のひらのデザイン 身近なモノのかたち、つくりかた、使いかたを考える。

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旅先で出会ったジュエリーたち
― 吉村 静

(2023.03.05公開)

2014年から日本を離れ、カナダに住みながらいろんなところを旅している。北米、南米、ヨーロッパ。インドとネパールには5ヶ月滞在し、ニュージーランドでは1年間ハイキングに明け暮れ、そこからアジア諸国を巡った。

旅を続けるなかで頭を悩ませるのが、荷造りだ。昨今ミニマリストが流行ってるからか、人からそう呼ばれることもあるけれど、正直自分は全然ミニマリストじゃない。

私は京都芸術大学でファッションを学び、昔も今も服が好きだ。実家には大事にしている服がまだたくさん残っているし、この前も「整理するぞ!」と意気込んだものの、全然捨てられなかった。服に限らず、ちまちましたものを集めるのが好きだし、リサイクルショップで見つけた用途がよくわからないものとか、人からもらった手紙とか、そう簡単に捨てられない。

でもカナダと日本を行ったり来たりしているうちに、ミニマリストにならざるを得なくなってきた側面もある。航空便で荷物を送るのは料金が高く、かといって安価な船便でも「本当に必要かな?」と考え出すと迷宮入りで、結果、実家の箪笥行きとなる。

それでもやっぱり、荷物は軽い方がいい。今の自分が持っているものをごっそり持っていくよりも、未来に少し余白を残しておいた方が、新しい出会いを迎え入れやすい。どうしても手放したくなかった服だって、手放してみれば新しい風の通り道ができて、別の出会いがやってくる。荷物を減らしながら自分のスピリットを持ち続けるために、今自分の中でしっくりきているのが旅先で出会ったジュエリーだ。

左の指輪はアルゼンチン、中央の指輪はインド、右側のブローチはニュージーランドで選んだもの

左の指輪はアルゼンチン、中央の指輪はインド、右側のブローチはニュージーランドで選んだもの

ことの始まりは2015年に行った南米旅行でのアルゼンチン。6週間ヒッチハイクやバスで旅をしている中でピンク色の山を見た。何色もの地層が不思議な地形を作り出している。真っ青な空の下で見たその風景は今なお鮮明に記憶の中にある。どうしてもこの感動を覚えておきたい。そう思ってお土産屋さんを巡っていて目についたのが、三角形のピンク石が入った指輪だった。普段指輪はつけないけれど、この指輪をつければまたこの風景を思い出すことができるんじゃないか。念にも近い想いを込めて購入した。

以来、この指輪を身につけると、どこにいても記憶の中で旅をしている気になれる。身体にジュエリーが触れることに意味があると思うようになり、それはある種のお守りのような存在でもある。自分があの時立ってた場所、そこで出会った世界と時間。ジュエリーという小さな塊がその世界と今をつなぐ境界線になっているのかもしれない。

それ以降、旅先でジュエリーを一つ買うのが新たな楽しみとなった。新品のものもあれば、リサイクルショップで見つけたもの、現地の友達がくれたものなど様々。買ったお店や雰囲気もジュエリーに触れるとしっかり蘇る。

インドでは極彩色の世界に魅了されて、違う色の小さな石が詰め込まれた指輪、エストニアでは深い青色の海で寒中水泳をしているお婆さんを見た時の光景が忘れられず買った青いガラスのピアス(片方なくしてしまった)、アラスカの先住民の工芸品屋さんでは、お母さんの家族の話を聞き、そのあと手にとったうさぎのネックレス、日本からは大学の友人が日本を出る前に作ってくれたピアス、この前まで住んでいたカナダのユーコン準州では、ファーストネーションのクラスメイトがビーズで編んだファイヤーウィード、という夏になると咲き乱れる花をモチーフにしたピアス。そんな風にしてそこでの物語が一緒に紡がれて、こうして今、私の手の中にある。

カナダの極北の町、ドーソン・シティのリサイクルショップで見つけた地球のピアス。あんな遠くの町で、どんな人が寄付したんだろう。小さくて大きな世界の不思議さを感じる

カナダの極北の町、ドーソン・シティのリサイクルショップで見つけた地球のピアス。あんな遠くの町で、どんな人が寄付したんだろう。小さくて大きな世界の不思議さを感じる

私は一つの場所にとらわれず、漂流しながら生きている。カナダで永住権をとってからは楽しいこともあるけれど大変なこともたくさんある。文章を書いたり、写真を撮ったり、野菜を作ったり、なんとか自分の変化を受け入れながらその時々に合わせて場所を変えている。感じたことのない寂しさにさいなまれたり、迷うこともしょっちゅうだけど、そんな時にこのジュエリーたちが私のコンパスという「道具」として機能しているような気がする。

この世界にはいろんな時間の流れ、自然の色、生き方がある。自分の目で見た景色、出会った人々、かけられた言葉たち。旅先で出会ったジュエリーを身につけると、その全てを信じていいんだと思えて勇気が湧いてくる。そしてそれが新たな船を漕ぎ出す原動力になるのだ。

今日も風に吹かれながら、旅先で出会ったジュエリーたちがまだ見ぬ風景へと旅立たせてくれる。

小さな箱にぎゅうぎゅうに詰まったジュエリーたち

小さな箱にぎゅうぎゅうに詰まったジュエリーたち


吉村 静(よしむら・しずか)

ランナー、アーティスト。

走歴30年。1987年新潟県長岡市で生まれ、豊かな自然環境の中で育つ。

京都芸術大学空間演出デザイン学科を卒業し、その後ランニング雑誌の出版社に勤め、2014年からカナダを始め様々な国を旅する。5年のカナダ・バンクーバー生活を経て、2021年よりカナダ北部にあるユーコン準州ドーソン・シティへ移住。20人の小さなビジュアルアートスクールに通いながら、極北での生活を体験する。その様子を幻冬舎が運営するウェブマガジン、幻冬舎プラスにて「極北でアートを学ぶ」として連載した。現在は日本とカナダの雪国の風景にインスピレーションを受け、写真をはじめとした作品の制作を行っている。

HPhttps://www.shizukayoshimura.com
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