アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#33

本当に必要なものをつくる“新しいシステム”をつくりました
― 須藤圭太

(2015.08.05公開)

 万人受けする、どこでも手に入る汎用性と利便性を兼ね備えたものではなく、自分の思い描いた通りのオーダーメイドでもない。陶芸家の須藤圭太さんが営む「注文の多い食器店」は須藤さんとの出会いによって器がつくられる。使われずに捨てられていくものも決して少なくない現代、本当に必要とされるものだけを生み出したいという想いから始まった試みだ。実用的な器だけでなくアート作品も手がける須藤さんはものづくりを、作り手であることをどう考えているのだろうか。

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撮影:表恒匡

——須藤さんが陶芸に興味を持たれたきっかけは何でしょうか。

もともと陶芸に限らず「ものをつくる」といったことが好きでした。それで美術系の高校に通い、高校卒業後はアパレルに就職して2、3年ほど働いていたのですが、やっぱり美術に携わることをしていきたいと東北芸術工科大学に進学しました。美術の中でも彫刻や漆芸といった日本の伝統工芸に興味があったのですが、粘土という素材を触ったときに一番しっくりきたんです。
子どもの頃に陶芸をしたことがあって、そのときの感覚が印象深く残っていたんだと思います。家はふつうのサラリーマン家庭ですが、茨城の笠間という陶芸の産地に住んでいたので、小さいころからまちなかに当たり前のように陶器が並んでいる環境で育ち、知らず知らずのうちに自分の中に焼き物という存在が蓄積されていたんだと思います。だからいざ何かを始めようと思ったときに焼き物をやってみようかなという流れが自然とできたんだと思います。

——その後、京都造形芸術大学大学院へ進学され、さらにスイスの大学にてヨーロッパの陶磁器について学ばれています。日本と海外での学びに違いなどはありましたか?

とても刺激的な時間でした。僕が行ったところに限ったことではないと思いますが、作品と商品のカテゴリーがはっきりと分かれていたことに驚きました。陶磁器の中にも器をつくっているひとがいて、器の中でも日常的に使用するものや、ちょっと手が出にくいお高いものがあって、器じゃなく彫刻のようなアート作品、またアクセサリーといったファッションアイテムをつくっているひともいて、と様々なジャンルがありますよね。日本の場合アートとしても器としても利用可能といったふうに、それぞれの境目がとてもボーダレスなのですが、海外の人はその作品が何なのかをはっきりさせたがるんです。これは食器なのか? それともアート作品としての器なのか? 日本では観る側が自由に解釈する場合が多いのに対して、向こうではそのつくったものがどういうものでどんな価値があり、つくったひとはどんなひとなのかを聞かれるので、自分が何者なのかを徹底的に説明しないといけないんです。それには最初とても戸惑いましたが、個人と作品との繋がりがより重要視されるということはとても新鮮でした。

*……HAUTE ÉCOLE D’ART ET DE DESIGN GENÈVE/CÉRAMIQUE & POLYMÈRESのこと。ジュネーヴにあるデザイン・美術の総合大学。

——ジュネーヴではどういった作品をつくっていましたか?

日本でやっていたことを持っていって同じことをしては、行く意味がないなと思いましたので、使っていた道具も一切持っていかず、コンテンポラリーアートなどの作品をつくっていました。器はまったくつくりませんでしたね。それまで日本で学んでいたことの多くは、陶芸における技術的なことや社会問題を組み込んだ作品づくりがほとんどでしたので、僕が行った大学はアート色が強かったこともあり、自分の内から出てくるものを陶芸で表現することに挑戦していました。

——自分自身の中から出てくるものを表現することと、使用することが目的の器づくりでは、それぞれと向き合うときに気持ちの変化などはありましたか?

自分の中から出てくるものをつくるときってどんどん自分の中に入っていく感覚で、周りのことを気にせず欲求に任せて体を動かせるという楽しさはありますが、外との繋がりがほとんどない。その分、展示会で発表して初めて外と繋がるので、このちょっとしたドキドキ感を味わえるのは楽しいです。誰かに使ってもらえるようにと器をつくるときは、「この器にはこんなものを盛ったら素敵だな」、「この部屋にこんな器があったらいいな」と使う場面を想像しながらつくるので、他者との繋がりを意識できて楽しい。どちらも楽しいと感じるところが違っていて好きなのですが、今の自分にとっては誰かに大切に使ってもらえる器をつくることのほうがしっくりきていると思います。

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作家と消費者が直接向き合う受注生産という仕組みを持ち運びできるようにキット化した「New order」(2010年)。「注文の多い食器店」の受注生産というエッセンスと繋がるアートワーク(撮影:表恒匡)

——現在、完全受注生産形式の「注文の多い食器店」を運営されていますが、どのような思いから始められたのでしょうか?

きっかけは大学院のときの論文でした。東日本から西日本に行ったときにいろいろと疑問に思うことがあったんです。職人さんたちは1日8時間働き、毎日つくり続けないと生活は成り立たないのにできあがったものはものすごく安い値段で消費され、それでも余ってしまう食器がたくさんある。バブル期の大量生産、大量消費の悪い流れが引きずられたままの現状を目の当たりにし、こういうものづくりって何か違うんじゃないかと感じました。
焼きものの原料は粘土ですが、土にも限りがあります。それなのに大量につくり続けてしまっては、下手すれば日本で採れる土はもう100年分もないんじゃないかというくらいなんです。また焼きものは一度焼いてしまうと土には還せません。このままでは自分も無駄になってしまうものを安い値段で大量につくる流れに組み込まれてしまうと危機感を覚えました。だったらいっそのこと本当に必要とされている分だけを無駄なくつくる新しいシステムを生み出そうと思い、「注文の多い食器店」を始めました。

——食器の新しい生産・販売方法の提案として開始されたんですね。「注文の多い食器店」ではどのようにして商品ができあがるのでしょうか。

「店」といっても実店舗があるわけではなく、注文を受ける場所、相談する場所はどこでも構いません。注文には直接会って言葉を交わすことを前提としています。基本的にはその方に会って注文を聞き、遠方の方でどうしても会えない場合は、スカイプなどを通してなるべく対面している状態に近づけるようにしています。
たとえば「丸っぽい器がほしい」という注文を受けたとき、現物が目の前にないなかで話をするためお客さんと僕のニュアンスに差が生じます。そのイメージをなるべく共有するためにお客さんの趣味や普段どんなところで食器を買い、どういう服を着るか、家はどんなところでどんな雰囲気なのか、食卓に並ぶ食材はどんなものが多いのか、などプライベートに関わるお話をお聞きします。会ってそういったお話をすることで、その人のイメージしている「丸っぽい」というものがなんとなくわかってくるんです。
ただしこのとき、お客さんの要望を100%カタチにするということはしません。単純にそのまま再現してしまえばお客さんが期待している使い方の食器として使えなかったり、粘土では表現できないものだったりするというのもありますが、ここでは僕とお客さんが出会ったことで、どんなものができあがるのかを楽しみにしてもらうことを目的としているからです。
その後、値段の相談をして制作に入ります。注文を受けてから2ヵ月ほどで出来上がるので、完成したら郵送して受け取ってもらうという流れです。

——注文後、完成するまで商品の途中経過を見ないというのは、届くのが待ち遠しいですね。

実際に受注生産の形でやっているブランドさんは、完成させる前に一度モデルをつくって確認すると思いますが、この「注文の多い食器店」ではあえてそれはやっていません。もちろんお客さんには事前にそのことを理解してもらっています。自分の予想しないものができあがるか、予想通りのものがくるか、お客さんに楽しんでもらいたいと思っています。

注文の多い食器店1 注文の多い食器店3 注文の多い食器店2

客と対話してつくった商品の数々

toi toi toi

2015年3月に東京目黒区にて行われた「toi toi toi展」の展示の様子

——お客さんとの対話から生まれる一点物をつくっておられるわけですが、「ものづくり」をする上で須藤さんが大切にされているのはどのようなことですか?

ものをつくるとき、それが完成にいたる基準を決めておかないと完成しませんよね。その基準はひとそれぞれだと思いますが、僕の場合は自分がそのものに納得するかどうかです。自分が納得していないものをお客さんに出してもそれはお客さんにも納得してもらえないだろうし、商品としても魅力的だとは思えない。作品を窯から出して、初めてその焼きあがった器を目にしたとき、自分自身で「うん。いい」と思えるかどうかが、僕がものづくりをする上で大事にしていることです。一度もうこれでいいやと妥協してしまうと、毎回の基準がどんどん変わっていってしまって、きっと自分のものづくりの軸がぶれてしまう。自分の作品に納得できて好きでいられるかどうかは大切だと思うんです。

——須藤さんがこれから挑戦していきたいことなどはありますか?

陶芸仲間たちと一つの共有の窯をつくって、集まったひとたちと陶芸作品を通して触れ合えるような場をつくってみたいです。現在、千葉県にアトリエを構えて電気窯で制作しているのですが、昔の陶芸家たちは何人かで一つの薪窯を共有している場合が多かったようです。交代で薪をくべたり焼いている間みんなでお酒を飲んで話したり、窯出しのときには出来たてほやほやの器をねらってひとがいっぱい集まってきて、その場で値段の交渉をして完成したばかりの器を買って行ってもらったそうです。
それに、日本で昔から使用されている薪窯で焼いた作品は電気窯で焼いたものとはまったく異なる仕上がりになるんですよ。温度は同じですが熱量が全然違いますし、窯に薪をくべるという人間の労力も明らかに違いますね。火とひととがたくさんの熱量を加えてできた作品は、本当に「焼いたもの」なんだなという感覚を与えてくれます。

アトリエ1

アトリエ5

(上)千葉県にある須藤さんのアトリエ(下)この電気釜で器が焼き上げる。それぞれ注文個数によって大小の釜を使い分けている

——最近では実の弟さんであり同じ陶芸家の松本良太さんとのコラボ企画もあったそうですね。

弟とつくったユニット「スタジオ2124」で行った「ショートショート」という展示会ですね。お互い陶芸家になろうと言ってたわけじゃないのに、気づいたら2人とも陶芸を始めていて。一緒にクラフトフェアなどに出店したことはあるのですが、ギャラリーで展示することはなかったんです。それで、ギャラリーからお話をいただいたとき、いい機会だからと企画しました。お互い作家活動を始めてから家もアトリエも別々だったので、展示会のコンセプトやDM制作、ワークショップ、会場のレイアウト、作品の価格帯といったことから、また特にお互い自分がつくりたいものをつくるのではなく、2人でお互いがどういう作品をつくって展示するかを相談しながら一緒に進めていくことがとても新鮮でした。
それに、系統も種類もまったく違うものをつくっているのにどこか共通するものが見えて、陶芸とはまったく関係のない家で育ったのになぜ2人とも陶芸を始めたのかがなんとなくわかるような、自分たちのものづくりのルーツが見えた貴重な経験でした。

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スタジオ2124による「ショートショート」の展示風景

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「スタジオ2124」として陶器市にも出店している

——「ショートショート」を行ったことで見えてきた、どこか共通するものや、自分たちのものづくりのルーツというのはどういったものでしょうか。

実はショートショート展では2人のものづくりについての考えを文章にし、それを作品と一緒に展示したんです。そこから2人とも「もの」そのものというより、ものをつくる行為に重きを置いていて、粘土という素材の特徴とひとの手による技法の組み合わせによって生まれる偶然や化学反応を何よりも楽しみながらつくっていることが見えてきました。そして、ものをつくることで社会に何かを提案したい、ものづくりという行為を通して強く社会と結びつきたいという想いが2人のものをつくる原動力となっており、さらに共通するものづくりのルーツなのだということに気づきました。
僕は「注文の多い食器店」の運営やファッションブランドとのコラボといったデザイン的なアプローチで、弟は個性的な器や大きな彫刻作品の制作といった表現的なアプローチでそれぞれ陶芸の魅力を探り、社会に発信しています。

——陶芸作品をつくることによって伝えていきたいことはありますか?

陶芸を続けていくにつれて、改めて日本の陶芸文化ってすごいなと感じたんです。繊細な絵や模様が施されたものがあるかと思えば、ごつごつとしたまるで岩のようなテクスチャーの器もある。日本の陶芸文化の多様性を感じました。今は陶芸界を支えている先輩方がまだたくさんいらっしゃいますが、あと20、30年もすれば今度は自分たちが日本の陶芸を引っ張っていく世代になる。そうなったときに日本の陶芸文化が廃れてしまっていたらすごく悲しいので、自分たちが先導していく時代に今よりさらに進化した陶芸文化が存在しているように、現在の日本の陶芸を盛り上げ発展させながら、持続していきたい。文化って多種多様な価値観があったほうが強いと思うんです。「この文化はつまりこういうことでしょ」と決めてしまったらそこで終わってしまう。分母がたくさんあるだけ可能性もある。その多種多様な価値観のひとつとして僕の活動を提案していけたら、陶芸文化のなかで役立っていけるんじゃないかと思っています。

インタビュー・文 中野千秋
7月6日 スカイプにてインタビュー

プロフィール

須藤さんプロフィール写真

須藤圭太(すとう・けいた)
1982年茨城県笠間市出身。2008年に東北芸術工科大学美術科工芸コースを卒業。2010年には京都造形芸術大学大学院芸術表現領域を修了。その後1年間スイスのHAUTE ÉCOLE D’ART ET DE DESIGN GENÈVE/CÉRAMIQUE & POLYMÈRESにてヨーロッパの陶磁器について学び、帰国後独立する。現在、千葉県松戸市にアトリエを構え、完全受注生産の「注文の多い食器店」の運営や展示会、陶器市、クラフトフェアなどで活躍している。2012年、実弟である陶芸家の松本良太とのユニット「スタジオ2124」としての制作活動も開始。2012年、高岡クラフトコンペディション入選、2014年、そば猪口アート公募展入選、AMAKUSA陶芸展審査員特別賞を受賞。

中野千秋(なかの・ちあき)
1993年長崎県生まれ。京都造形芸術大学クリエイティブ・ライティングコース所属。インタビュー&フリーペーパー制作の『Interview! プロジェクト』にて1年間活動。そのほか、職業人インタビュー『はたらく!!』の制作や京都造形芸術大学の『卒展新聞』などに寄稿。