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アネモメトリ -風の手帖-

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#170

独りじゃ、活きられへん。三島独活
― 大阪府茨木市

大阪府茨木市の北部、JR茨木駅からバスで40分ほどの山間にある千提寺。「隠れキリシタンの里」としても知られる自然豊かなこの場所で、三島独活(みしまうど)という江戸時代から栽培されている伝統野菜を生産・販売している全国で唯一の農家があります。中井大介さんと優紀さん夫婦が営む千提寺farm.です。
やわらかく、みずみずしく、果物の梨のような甘みがあるのが特徴で、なにわの伝統野菜にも認定されている三島独活は、小屋の中で、藁と干し草を発酵させた熱だけで栽培するという、江戸時代から続く農法で育てられる真っ白なうど。
かつて、茨木市(旧三島郡)は三島独活の一大産地でしたが、300年にわたり受け継がれてきたその栽培法は、自然の力に委ねるところも大きく、1年を通じて膨大な手間と高度な技術を要するもので、それゆえに時代の流れとともに廃れていったといいます。
中井さん夫妻は、同じ村で唯一残っていた三島独活の栽培農家からその農法を継承し、江戸時代から続くやり方で三島独活を育てている、現在ただ一軒だけの栽培農家なのです。
電気や成長ホルモン剤などを一切使わない昔ながらの育て方。それはいわゆる「効率的」な農法ではありません。温暖化による気候変動の影響で、毎年、予想だにしない問題も起こり、思うようにいかないことも多いそう。しかし、気候の影響を受けやすく、多くの人の手を借りなければ育てられない三島独活が、それでもこれまで守り継がれてきたということを、中井さん夫妻はとても大切にしています。
千提寺farm.でつくられる三島独活と、2人の生き方、その人柄に惹かれるファンは多く、「株主」となって応援する人たちも増えています。ここでの株主とは、通年で千提寺farm.と共に三島独活を育む仲間のこと。この活動は、年間一株5000円で独活の株を保有するというものですが、興味深いのは、収穫した独活をもらえる権利とともに、栽培から収穫まで、その農作業にも参加できるという「特権」があること。三島独活の栽培の苦労や収穫の喜びを分かち合える農作業の体験は、人と人とがふれあい、交流を深める場でもあり、たいへん魅力的です。
人が寄り添うように、手間暇かけて育む三島独活から、人と人とのつながりの大切さを教わったという中井さん夫妻は、三島独活を「独りじゃ、活きられへん」という言葉で表現します。千提寺farm.のホームページやリーフレットに必ず書かれているこの言葉に、三島独活の滋味が滲みでています。

(酒井千穂)

参考
千提寺farm.
https://sendaijifarm.theshop.jp

千提寺farm.(三島独活)facebook
https://www.facebook.com/sendaijifarm.380

なにわの伝統野菜
http://www.pref.osaka.lg.jp/nosei/naniwanonousanbutu/Leafletinside.html

株式会社商報編(2020年)『大阪食べる通信』第6号「大阪府茨木市 中井さん夫婦が育てる三島独活」株式会社商報
収穫を終えた独活小屋。1月にこの中に独活の株を植えつけ、積み重ねた干し草と藁の「むろ」を作り、その発酵熱で土を温めて約1ヵ月間毎日温度調整を行なって独活を育てる

収穫を終えた独活小屋。1月にこの中に独活の株を植えつけ、積み重ねた干し草と藁の「むろ」を作り、その発酵熱で土を温めて約1ヵ月間毎日温度調整を行なって独活を育てる

新たに畑に植え付けるために切り分けられた三島独活の株

新たに畑に植え付けるために切り分けられた三島独活の株

訪ねたのは4月中旬。新しい株を植え付けるため、畑にマルチというフィルムをかける作業をしているところ

訪ねたのは4月中旬。新しい株を植え付けるため、畑にマルチというフィルムをかける作業をしているところ

中井大介さんと中井優紀さん

中井大介さんと中井優紀さん

三島独活の栽培方のイラストやレシピが載った千提寺farm.のパンフレット

三島独活の栽培方のイラストやレシピが載った千提寺farm.のパンフレット