佐賀県の嬉野(うれしの)は、お茶と温泉で有名なところです。また焼き物の産地として、有田や波佐見とともに日本遺産・肥前やきもの圏の一員でもあります。肥前では約400年前に焼き物の生産が始まりましたが、嬉野には肥前吉田焼と志田焼があります。
肥前吉田焼はかつて生活雑器を中心に栄え、お茶の産地にふさわしく茶器の生産などを盛んに行っていました。吉田地区では現在でも7つの窯元と問屋1社が営業し、伝統を引き継いでいます。
志田焼は染付皿を中心に大量生産を行い、一時は海外にも輸出していましたが昭和59年に製造が途絶えました。現在は広大な工場跡地を「志田焼の里博物館」に改修して、展示や焼き物体験を行っています。
さて肥前吉田焼といってもあまりピンとこないと思いますが、写真にあるような藍色の地に白い水玉模様の急須や湯呑をどこかで見たことがあるのではないでしょうか。これが肥前吉田焼の代表的な商品で、懐かしい昭和の名残が漂っています。今ではピンクやオレンジ、グリーンなどのカラフルなものも作られています。
窯元の一つ、副千(そえせん)さんを訪ねてみました。工場の入口に「工場見学とえくぼとほくろ」という看板があります。古い木戸を開けると可愛い水玉模様の器が勢ぞろいしています。焼き物の製造過程では、小さな凹みや黒い点が残るものがどうしても出ます。これらはぱっと見ではほとんどわかりませんが、規格外品になります。「工場見学とえくぼとほくろ」は、このアウトレット商品を、工場を訪れてくれた人にだけ格安で提供しようという企画です。6つの窯元が参加していて、観光客に人気があるそうです。
また副千さんには、工場の並びに洒落た小さなギャラリー兼茶室があります。この茶室は、「嬉野茶時」というプロジェクトのティーセレモニーの場になっています。
「嬉野茶時」とは、嬉野茶・肥前吉田焼・嬉野温泉を現代的な新しい切り口でトータルにコーディネートして提供するプロジェクトで、その目玉が「茶空間体験」です。これは、茶畑や森の中などの静謐な空間、あるいは時代を感じる吉田の茶室で、お茶の生産者自らが茶会の演出からお茶の提供までの全てを担い、お客さんに五感でお茶を味わっていただこうというプログラムです。そこには肥前吉田焼のモダンな一面も見えます。
新緑の頃、茶畑の中で催されるティーセレモニーに、ぜひ一度参加してみたいものです。
(山口美登志)
参考
肥前やきもの圏|400年熟成観光地
https://hizen400.jp/
肥前吉田焼
https://www.yoshidayaki.jp/
志田焼の里博物館
https://shidayakinosato.com/