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アネモメトリ -風の手帖-

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#96

みんなのための円形分水
― 大分県竹田市

口の中に広がるお米の風味、まるでもち米のようなもちもちとした食感、粘り、この時期にしか味わえない新米のおにぎりを今年も食べることが出来ました。1年中ご飯を食べているといつの間にかこの新米風味は薄れていきますが、久しぶりに出会うこの美味しさが、日本人であることへの感謝、そして自然の恵み生産者への感謝を思い出させてくれます。
5月に見る田んぼに植わった苗たちのエネルギッシュな姿も好きですが、10月に見る黄金色が一面に広がる光景も美しくて好きです。稲刈りの後、刈り取った稲を適当な束にまとめてハザに掛けて天日干ししている昔ながらの景色には先人の知恵を感じてしまいます。田んぼという場所は命の源になっていて、どれだけ大切に守られてきたのか。そんなことを考えていると、ふと円形分水のことを思い出しました。大分県竹田市にある「音無井路十二号分水」です。
ある時、「円形分水があるから行ってみるといいよ」と言われ、何のことかわからずに見に行きました。直径5m程の分水。井戸でもなく、噴水でもなく、この丸い分水に向かって1本の水路から絶え間なく水が注がれています。そして分水に集められた水は12個の窓から四方八方に流れ出します。窓から出た水たちはそれぞれ必要な場所に勢いよく走っていっていました。この溢れる水の動きを見ているとなんだか不思議な気持ちになります。
ふと分水の隣に目をやると「岡藩士須賀勘助氏碑」という石碑が建てられていました。この分水の歴史は1693年まで遡るそうです。干害、洪水による飢餓を救おうと岡藩士須賀勘助氏が動き出したことが始まりです。完成したのは1892年(明治2年)、困難な状況が幾度も襲ってくる中、多くの人の血と涙の結晶で200年の時を経て通水に成功したのです。
近くの看板に「水は農家の魂なり」と書かれていました。300年以上前からの想い。つながれた先人賢人たちの魂がいまもここでみんなのために活躍しています。

(出口聡子)

たわたわに実った稲穂

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円形分水

円形分水