日本の3大和紙のひとつである土佐和紙は、いの町で生まれました。主な原料である楮(こうぞ)が育つために適した土地があり、和紙を漉くには欠かせない水が豊富にあったからです。特にカゲロウの羽とも呼ばれる「土佐典具帖紙」という極薄で強靭な和紙が発明されてからは、タイプライター原紙として世界中に輸出されるほど盛んになりました。その繁栄に伴い商店街には紙問屋や商家が建ち並び、土佐漆喰の白壁や水切り瓦など、伝統的な土佐の建造物がいまもなお多く残っています。
そんな紙の町ならではのイベントが、こどもたちが主役の「かみのひな祭り」です。毎年3月の第1土曜日、日曜日に地元民の手作りで行われます。土佐和紙で作られた衣装をまとったこどもびなと七福神が「いのの大国様」として古くから親しまれている椙本神社で健康祈願をし、いの町紙の博物館をゴールに商店街をパレードします。
かみのひな祭りは、いの町役場、いの町観光協会、商工会を中心に町に関わる人々で企画を出しあい、定期的に集まり装飾の準備を行います。私は町に住むデザイナーとして参加し、ポスターやチラシの制作を担当しました。
商店街はアーティストによって土佐和紙のデコレーションがされ、地元の飲食店や農家さんによる美味しい食べ物やお土産を買うことができます。紙の博物館では、土佐和紙にまつわるワークショップがひらかれ、手漉き体験やノートづくり、紙箱づくりなど、和紙に触れ合う体験がたくさんできます。緑色の黒板を日本で最初に製作した工場を会場にした「落書きし放題の黒板」や「和紙の紙吹雪プール」など、この町ならではの遊びもありました。
今年の3月4日、5日はお天気に恵まれ、桃の花や菜の花が咲く春らしい日になりました。普段は静かな商店街もこの日はたくさんの家族連れで賑わい、地元民による地元民のためのお祭りとして笑顔が飛び交いました。
どこも同じような大型店がならぶ中心市街地では、同じような出店のお祭りが多くなりがちです。そういったなかで、作り手と買い手の距離が近く、自分たちが育つ町ならではの食べ物や遊び、町の人に触れ合うことで子どもたちが将来「こんな町で育った」と少しでも胸に刻まれることを願って、自分たちも楽しめるあたたかいお祭りづくりをしていきたいと思います。
(大賀美穂)