アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風信帖 各地の出来事から出版レビュー

TOP >>  風信帖
このページをシェア Twitter facebook
#307

カンボジアロイヤル鉄道―再び動き出した列車と国
― カンボジア王国 プノンペン特別市

朝のプノンペン中央駅には次々と人が集まり、ひとときの賑わいを見せます。タイ国境のポイペトへ向かう「北線」、カンボジア唯一の国際港のあるシハヌークビルへと向かう「南線」のふたつの路線がプノンペンから発車するのです。ホームで発車を待つ人たち、お弁当売りの人たちの声、まだ明けたばかりの空から聞こえる鳥の声。駅からまっすぐに伸びてゆく線路はいかにも旅情を誘います。

プノンペン中央駅。かつてはコロニアル建築らしい薄い黄色の外壁だったが、改装工事を経て現在は白壁となっている

プノンペン中央駅。かつてはコロニアル建築らしい薄い黄色の外壁だったが、改装工事を経て現在は白壁となっている

プノンペン中央駅のホーム。向かって左に北線(バッタンバン行き)、右には南線(シハヌークビル行き)の車両が出発を待っている

プノンペン中央駅のホーム。向かって左に南線(シハヌークビル行き)、右には北線(バッタンバン行き)の車両が出発を待っている

乗車して驚くのが、そのきれいさです。4両編成(2025年12月時点)の列車は、なんと日本の車両が使われているのです。使われているのはJR北海道の特急車両だった「キハ183」。2023年に日本での役割を終え、カンボジアで第二の人生を送っているのです。普通車両はもちろん、VIP車両は日本のグリーン車そのものでとても快適です。発車すると売店で売られているカップ麺のにおいがあちこちから漂ってくるのがカンボジアらしいところでしょうか。

VIP車両。表示も日本のグリーン車そのままで、座席では充電も可能だ

VIP車両。表示も日本のグリーン車そのままで、座席では充電も可能だ

プノンペン市内では市民の暮らしている街をすり抜けていきます。進路を進めるにつれ、郊外では工場が点在している様子、地方ではのどかな田園風景にヤシの木や牛が草を食む様子が見られ、車窓からカンボジアのいまを感じることができます。

車窓に広がるのどかな風景の一方で、この鉄道がたどってきた道のりは、決して穏やかなものではありませんでした。カンボジアロイヤル鉄道(Cambodia Royal Railway)の歴史はカンボジア近代の歴史を映し出しています。フランス植民地時代に貨物輸送を目的に建設が開始され、一時は隣国タイとの国際列車の運行もあったといいます。しかし、1970年には内戦が勃発。鉄道は荒廃し、ポル・ポト政権下では鉄道員は農村へ追いやられました。時は過ぎて内戦終結後、海外の支援を受けて再建し、2016年には14年ぶりに南線の旅客運行を再開、2018年には北線の全線が復旧し、カンボジアとタイは45年ぶりに線路で繋がりました。貨物輸送量も年々増えており、国内の工場で生産された商品を世界へと運ぶために、コンテナ車が走行する様子も見られます。

シハヌークビルへ向かうコンテナ車。日本の支援を受けて整備されたシハヌークビル港は、国際物流の主要拠点となっている

シハヌークビルへ向かうコンテナ車。日本の支援を受けて整備されたシハヌークビル港は、国際物流の主要拠点となっている

最高速度は時速80キロ、しかし線路脇で生活する人のいるプノンペン市内ではバイクよりもゆっくり走る列車は、のんびりとした旅を楽しむのに適しているのでしょう。外国人の乗客も多く、落ち着いた雰囲気です。停車駅では大きな荷物を持ったカンボジア人たちも乗り込んできます。物流を担う手段として、国民の生活の一部として、また旅行者の楽しみとして、カンボジアの列車は目に見える進化と発展を続けています。

参考
「キハ183系、カンボジアで現役復帰 特急『北斗』『オホーツク』で活躍」『北海道新聞デジタル』2024年12月29日、https://www.hokkaido-np.co.jp/article/1106592(2026年1月25日閲覧)。

Site Cambodia Royal Railway, Retrieved  January 25, 2026,
https://royalrailway.easybook.com/.

The Guardian, “Cambodia revives train service between Phnom Penh and Sihanoukville,” Retrieved  January 25, 2026,
https://www.theguardian.com/travel/2016/jun/05/trains-phnom-penh-sihanoukville-kampot.

Capital Cambodia, “Royal Railway on track to modernization,” Retrieved  January 25, 2026,
https://x.gd/Xny7D.

(三浦まり子)