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#288

古本市が場所をひらき、人をつなぐ
― 島根県雲南市

2025年5月31日の朝10時。旧和田邸1階の土間と和室、厨房にカフェを含む20店舗がずらりと並び、「きすき春の古本市」が始まりました。開場とともに次々と人が訪れ、本をめぐる会話が弾みます。出店者はプロ・アマ問わず、地元・島根県雲南市のほか、岡山県や鳥取県米子市、県内では益田市、奥出雲町、出雲市、松江市から集まりました。中には、8月に古書店の開店を控える人も(註1)。

旧和田邸

旧和田邸

旧和田邸は築88年の古民家。農家の木綿を集め生地を作る「さらし屋」として創業し、戦前は呉服店を営んでいたといわれる場所です。地域で増える空き家の課題に対して、この場所に複数の店舗が入居し、新たな人の動きをまちなかに生み出すとともに、文化創造の拠点を目指す「旧和田邸再生計画」が立ち上がりました。計画の実施にあたり、旧和田邸を知ってもらうきっかけとして企画されたのが、今回の古本市です。

古本市の様子。古民家と読書は相性がいい

古本市の様子。古民家と読書は相性がいい

主催者である「木次まちなかプロジェクト実行委員会」の小堀祥仁(こぼり・よしひと)さんにお話を伺いました。小堀さんは東京から移住し、2024年4月から雲南市の起業型地域おこし協力隊を務めています。雲南市とは縁があり、大学時代に長期滞在して廃校のリノベーションなどの官学連携事業に携わりました。古本市の開催は今回が初めて。ノウハウを持つ「いづも一箱古本市(註2)実行委員会」の協力を得て実現しました(余談ですが、出店者マニュアルの「周辺飲食店」の説明が具体的かつ魅力的で、小堀さんの地元愛がじわり)。

建物見学ツアー。一級建築士でもある小堀さんが建物を案内

建物見学ツアー。一級建築士でもある小堀さんが建物を案内

趣きのある建物や蔵を探検したり、フルーツみつ豆を食べながら友達とおしゃべりしたり。古本市という開かれた場所に、あらゆる世代が集まり、それぞれに楽しむ姿がありました。建物も生き生きとして喜んでいるようでした。
次の古本市は、2025年10月12日に開催を検討されているとのこと。当日は木次駅前で行われる「秋の賑わい市」と同時開催されることで、木次駅前から商店街を通って旧和田邸まで、人が行きかう景色が見られることでしょう。

取材協力
木次まちなかプロジェクト実行委員会 小堀祥仁さん
「きすき春の古本市」出店者のみなさん

写真
小堀祥仁さん(1枚目)、その他は筆者撮影

(註1)
「書堂しろへび」の廣野有香(ひろの・ゆか)さんは京都芸術大学の卒業生。出雲市で古書店を開店予定です。
古書と空間 書堂しろへび
Instagram: @shodoshirohebi

(註2)
「一箱古本市」は、島根県出雲市出身のライター・編集者の南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)さんが提唱する「一人が一箱の古本を販売する」イベントです。島根県内の開催例は「いづも一箱古本市」(出雲市周辺、2017年~)や「BOOK在月」(松江市、2013年~)、「天領一箱古本市」(大田市、2014年~)など。今回の古本市は「一人一箱」にこだわらず、各店がレイアウトや什器に工夫を凝らして本を並べていました。

参考
Facebook「きすき春の古本市」、
https://www.facebook.com/events/1169939934863522/(2025年6月15日閲覧)。

Facebook「いづも一箱古本市実行委員会」、
https://www.facebook.com/profile.php?id=100070079070505(2025年6月22日閲覧)。

Facebook「天領一箱古本市」、
https://www.facebook.com/tenryouhitohakofuruhonichi(2025年6月22日閲覧)。

イノハラカズエ『松江日乗 古本屋差し入れ日記』ハーベスト出版、2022年。
今回の古本市にも出店された、島根県松江市の古本屋「冬營舎(とうえいしゃ)」の日々が綴られています。先述の「いづも一箱古本市」「BOOK在月」とゆかりの人々も登場します。

(綾仁千鶴子)