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#224

工場廃墟からアート空間への変貌:「798芸術区」
― 中華人民共和国 北京市

コロナも、ようやく落ち着きを見せてきました。北京では、相変わらずマスク着用の人が目立ちますが、街は以前の活気を取り戻した様子です。コロナ規制が厳しい時期は北京を出ることもままならず、鬱々とした気分の時に私が訪れていたのが798芸術区です。

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798芸術区は、北京市の北東に位置し、首都空港を南へ15kmの場所にあります。芸術区ということで美術館やギャラリーが多かったのですが、近年、レストランやカフェ、雑貨店など個性的なショップも集まるようになりました。ここはそもそも、50年代の初頭にソ連の資金援助により、東ドイツが設計と建造を担当したとされる工場地区でした。「798」という数字は、この地区にあった国営工場の名称をそのまま引き継いでいるものです。かつては、郊外に建てられたはずでしたが、北京市の拡大につれて工場も閉鎖を余儀なくされました。
すっかり取り残されてしまった工場地区でしたが、2000年頃より、その簡素ながらも機能美を備えた建築群に芸術家が注目するようになり、徐々に美術大学の教員や無名な芸術家がアトリエを作ったり、書店やギャラリーなどが集まるようになりました。
この地区に足を踏み入れると、赤レンガで建てられた工場建築群や、古びて錆びついたむき出しのパイプ、かつて材料などの運搬に使われていたであろう列車の線路など、ノスタルジックな雰囲気が街中に溢れています。そんな風景の中に鮮やかな壁画や個性的な巨大オブジェが鮮明な印象を与えています。芸術家によって見出された工場跡地は、歴史的建造物群とアートの共存地区として新しい街のシンボルとなりました。

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しかし、注目されるようになると商業的価値が上がり、大規模な土地開発も始まる兆しが見えています。一方、家賃の上昇などに伴い芸術家がその地から去っていく事態も招いてしまいます。工場の跡地ならではの魅力によってアーティストの溜まり場となった798芸術区ですが、今後商業化の波をどのように乗り越え、独自の芸術空間を保ち続けていくのか真価が問われています。

(厳 有佐)