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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#91
2020.12

コロナ禍の変化と取り組み

2 テクノロジー×ローカル 共同して地域を変える 岡山・西粟倉村
5)失敗も財産に 共同研究で組織をつくる

コロナ禍によって、ようびを含め、それぞれの組織が対応を迫られている今年、西粟倉村としても新たな取り組みが始まった。
それが、「一般財団法人 西粟倉村むらまるごと研究所」である。西粟倉村は現在、移住者が1割を超え、「地方創生」
といえば名前があがる村の1つになっている。
その流れをさらに推進するための策を練っていた村役場のアイディアを発端に、今年7月にこの研究所が設立された。なぜ唐突にこの研究所を紹介したかといえば、その代表を務めるのが奈緒子さんだからだ。

研究所の目的について、プレスリリースには次のように書かれている。

西粟倉村が掲げる「生きるを楽しむ」を持続可能にするため、「最新テクノロジーは地域や人を幸せにできるのか」を命題に、西粟倉村をまるごと検証フィールドとして、企業や研究機関と新技術の研究開発及び地元と連携した実証事業を行ないます。

そのようなコンセプトの研究所ができた背景について、奈緒子さんはこう話す。

———役場のなかで「地方創生推進班」という横断型の組織ができて、そこでワークショップを行って、出てきたアイデアの1つが、西粟倉村まるごと研究所に続いているんですね。それを先に進めるために、コーディネイトしたりビジョンを描くひとが要る、という話になって、わたしに声をかけてくださったんです。
いま、世の中のテクノロジーの変化がすごく激しいですよね。田舎こそそういう技術に助けられることがあるから、その実装に向けて真剣に取り組む必要がある。でも、ついていくのが難しい。だから自分たちで勉強して、積極的に動かないといけない、という認識が役場内で共有されたところからスタートしました。
普通の役場というのは基本的に、何事も進め方が慎重です。すぐに結果は出なくていいとか、失敗しても大丈夫という感じで思い切って何かを進めるのは向いてない。そこで、この研究所をつくろうと。研究だから、うまくいったことは実装に向けて動けばいいし、失敗しても知見が溜まるから次につながるはずです。そのような、失敗も財産にできる組織をつくることが、新しいものを生み出す上で重要だと考えたのです。
そして、技術によって地域全体が変わるためには、すば抜けて能力の高い人が1代ですごいものをつくったとしてもだめです。十数年後には当たり前にドローンとかロボットとかが村にいる状態をつくろうと思うと、やはり、農家さんとか、現地で生きるひとがドローンを使ってアプリで管理してみようとか、ちゃんとデータを入力していくとか、そういうふうにして新しいテクノロジーを自分で使ってみようと思わないと地域全体が変わるっていうことは起きえない。
そのための種となること、つまり、人と人をつなぎ、お金を集めたりすることを手伝うのがわたしの役割だと思っています。

「テクノロジー×ローカル」の実証事業の場としてスタート。スマートな技術というより、実際に現場で試しながら、泥をかぶってもらいながら使っていくという意味で「テクドロジー」を標榜する。「生きるを楽しむ」をつなぐ」ことで、「生態系の本領発揮」できるような状態に持っていくことを目指す。ロゴについては「点々でできた丸の中にもいろんな色がある。それぞれの色の個性があっていいけれど、バラバラではなく、それぞれがつながりあって、重なり合ったりして別の色にもなって、引いてみると村が全部彩り豊かに輝いているっていう状態」と奈緒子さん

「テクノロジー×ローカル」の実証事業の場としてスタート。技術をスマートに駆使するというより、実際に現場で試し、技術に泥をかぶってもらいながら使っていくようなイメージで「テクドロジー」を標榜する。「生きるを楽しむ」をつなぐ」ことで、「生態系の本領発揮」できるような状態に持っていくことを目指す。ロゴについては「点々でできた丸のなかにもいろんな色がある。各々の色の個性があっていいけれど、バラバラではなく、それぞれがつながりあって、重なり合ったりして別の色にもなって、引いてみると村が全部彩り豊かに輝いているっていう状態」と奈緒子さん

研究所が今年度やろうとしている取り組みは3つある。ひとつは、多種多様な村内のデータをオープンデータ化すること、ひとつは、草刈りをゲーム化するシステムをつくって、多くのひとに積極的にやってもらえるようにすること、そしてもうひとつが、子どもや高齢者も自由に移動が可能になる「地産地消モビリティ」を開発すること、である。
たとえば「草刈りのゲーム化」は、村の農家のひとたちが草刈に疲弊しているという現実があるなか、その課題を解決する方法として考え出されたアイディアだ。そのように、西粟倉村にある課題の解決を目指すことで、各地域において有用な、汎用性のある新しい技術を企業や研究機関とともに開発しようとしているのである。偶然ではあるものの、外との交流が難しいコロナ禍のさなかに、この研究所のように、小さな村から、身近な問題をあらためて見つめ直し、継続的に広いビジョンで実証事業ができる場ができたことは村にとっていいタイミングだったといえるだろう。

———今年度の3つはどれも、やりたいという思いがあるひとが内部にいて、村のなかでニーズもあった事業です。やはり、外部からひとを呼ぶとしても、もともと内部にやりたいという意思と熱量があってそれを応援してもらうという関係じゃないと、中途半端な結果に終わると思うんです。まだ設立されたばかりで、次年度は決まってないことばかりですし、あらゆることが手探りの段階です。お金もないし、ひともいない。でもこれからわたしたちが研究所を盛り上げ、この村にいるからこそできる価値ある研究をどんどんやっていけるようになれば、きっと、ここで研究したい、ここに投資したいというひとが集まってくるように思います。そういう研究所にするんだという目標を持って、できることをどんどんやっていきたいと考えています。

研究所となる予定の建物。JAが使っていた場所を役場から借り受けた。「いっしょにやってくださる仲間も募集中です!」と奈緒子さん

研究所となる予定の建物。JAが使っていた場所を役場から借り受けた。「いっしょにやってくださる仲間も募集中です!」