アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#38
2016.02

「伝える言葉」をさぐる「ただようまなびや」の取り組み

前編 福島・郡山から、古川日出男の発信
4)真似して書く 「演じる」感覚で引き出しを増やす

「漢字がおもしろいのは、象形文字から成り立っているからです」と華雪は話す。その理由は、とりわけ日本語のなかの漢字となると、同じ漢字でも意味や読み方は何通りもあるため、ひとそれぞれにいろいろなイメージをもつことが可能になるからだと言う。この2日間の両日とも、最後の授業で披露された彼女の書を見ると、鑑賞者それぞれのイマジネーションが立ち上がってくる印象を受ける。そうした効果を呼び寄せるのは、彼女自身が創作段階で思考を凝縮させていくからとも言える。
「わたしは写真家の友だちが多いんですけど、書を書くことは写真を撮るのに少し似ている気がします。景色はいっぱい捉えるところがあるのに、シャッターを切るのは1点だけ。同じ字を繰り返し書いていても、自分では同じように書いてるつもりでも、あれっ、こっちの意味で書きたかったのかも、違う、あっちの意味で書きたかったのかもとずれていく。すると、だんだん、だんだん自分のなかで、ああ、これを書きたかったのかというのが出てくるんです。
それと同時に、自分のなかの記憶とか体験とかが、思い返されてくる。だから、ちょっと物語をつくる感じに近いんですよね」。
ひとを感じさせる字を身体的に備えるため、華雪は先達の書を模写する方法を取り入れている。
「トレーニングとして、昔誰かが書いた字を真似して書くことがあります。たとえば良寛の字を真似てみようって書く。以前、良寛が住んでいた場所へ行ったんですが、雨に晒された寒々とした小屋があった。そこに佇んでいると、良寛が字を書いていたすがたがリアリティをもって感じられるんですよね。そうした自分の体験を交えながら、その筆跡から、良寛の身体や筋肉の感じとかを想像し、どんどん真似していきます」。
遠い過去の人間が手がけた書を、それを辿った創作過程を思い浮かべながら再現していくと、ある感覚がやってくると華雪は言う。
「(誰かに自分が)乗っ取られるのとは違って、演じている感じです。模写をするとき、いかに自分が良寛を演じるかって感じがすごくあるんですよ。
字を真似ると、錯覚かもしれないけれど、書いている人間の性格がわかってくるようにも感じるんです。小説を読むと、(作者の)息づかいを感じることがあります。こういうリズムでこのひとは書いているんだ、息をしているんだ、読んでいるんだ、聞いているんだと、そういうふうにのみ込んでいく。(模写で同じように感じながら)わたしは演じてみることで、わたしが書くヴァリエーションの引き出しを増やしているんです」。
トレーニングとはいえ、表現作品のなかで他者を感じて、その人間を“演じる”というのは面白い。戯曲において台詞をつくりだすとき、同じ言葉を使った古川と共通するものがある。