本誌はこれまで、地域のものづくりを再生する試みをいくつか取り上げてきた。そのかたちはさまざまで、土地の作り手が立ち上がることもあれば、プロデューサー的な存在が行政やまちの人々を巻き込んでいくこともある。また、製造以外のプロセスすべてに関わって、今の時代にふわさしいものをつくり、使い手に届けるところまでを手がける場合もある。
ひとつ言えるのは、大きなビジョンを持ち、根本的なしくみを変えようという動きが各地で起こりつつある、ということだろう。「地方活性化」の名のもとに、トレンド的に打ち上げられるビジネスとは一線を画した、先を見すえ、地に足をつけた取り組みである。
今回取り上げるのは、長崎県雲仙市小浜に拠点を置く、デザイナーでアートディレクターの城谷耕生さん。イタリアに渡ってデザインの仕事を手がけたのち、帰国。生まれ育った小浜に事務所をひらき、国内外で活動を続けている。これまで、イタリアや日本のよく知られたデザイン系の企業からデザインを発表し、アートディレクターを務めてきた。また、2013年には東京国立近代美術館工芸館の企画展「現代のプロダクトデザイン – Made in Japanを生む」でフィーチャーされるなど、経歴は華やかだ。
しかし、城谷さんが目指しているのは、グローバルな活動や地方と都市をつなげることではない。むしろその逆で、長崎や佐賀など、自身の住まう地域を中心に、伝統工芸を捉え直したり、地域をリデザインするなど、地域とかかわり、そのなかでものづくりを循環させる役割を果たそうとしている。
その試みは「ひとの役に立ちたい」という思いから育まれ、住民が「幸せに生活する」ために続けられている。このふたつをキーワードに、城谷さんのこれまでと現在の仕事を見ていきたい。
城谷耕生(しろたに・こうせい)
1968年長崎県雲仙市生まれ。’91年渡伊。ミラノのデザイン事務所勤務を経て、’95年ミラノを拠点にフリーランスデザイナーとして活動を開始。同年ミラノにて、イタリア工業デザイン協会主催のGRANDESIGN最優秀賞受賞。これまでにARBOS(イタリア)、UP&UP(イタリア)、AURA COLLECTION(京都)、NAGANO(福岡)などのアートディレクターを務め各社よりデザインを発表。2002年長崎県雲仙市に拠点を移しSTUDIO SHIROTANIを設立。1996年から2005年までイタリアの建築雑誌 ABITAREの編集協力員を務める。日本とイタリア両国において、石・漆・紙・ガラス・磁器・竹など様々な素材による産業の社会性をテーマにデザインを続けている。