アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#20
2014.08

<ひと>と<もの>で光を呼び戻す 東京の下町

前編 台東区「徒蔵(かちくら)」界隈を歩く

都心をぐるりと一周している山手線を時計の文字盤に置き換えると、東京の町の位置関係がすんなりと頭に入る。
短針の3時が東京駅、9時が新宿駅。高級ブティックの並ぶ有楽町・銀座界隈は4時の方向に、お洒落な子達が集まる原宿や渋谷は7時から8時にかけてだろうか。
御徒町・蔵前・浅草橋はちょうど2時の方向にあたる。表通りには問屋が並び、路地裏には木造家屋がひしめいている。建物の外には丹精込めた鉢植えが置かれ、家のなかから機械音が聞こえてくる。ステテコ姿の男性が家の前で一服していることもある。また問屋街は江戸の市街の発展とともに形成されたと聞く。大通り沿いには玩具や文具、貴金属などの卸問屋が建ち並ぶ。町工場にせよ卸問屋にせよ、このあたりは家族経営の住勤一体型が多い。東京や新宿といったオフィス街に比べてどこかのんびりした雰囲気が漂っているのはそのためだ。
一昔前まで、このまちは典型的な下町のひとつでしかなかった。けれども10年ほど前から、ものづくりに携わる若い世代がこのまちを訪れるようになると、まちの雰囲気が垢抜けてきた。材料を仕入れに来るひともいれば、アトリエを構えるひともいる。さらには洒落たショップも点在するようになり、休日になると路地裏をめぐる若いひとたちの姿が目立ってきた。
ターニングポイントとなったのはファッション系クリエイターの創業支援施設「台東デザイナーズビレッジ」の設立、そこから誕生した「モノマチ」イベント。成功の背景には、江戸時代から続くこのまち独特の気風があった。

ものづくりを支えてきたこのまちがどのようにして変化をとげ、再びものづくりの地として光を得たのか。今回は前編として、「台東デザイナーズビレッジ」と「モノマチ」を中心に考えてみたい。

「台東デザイナーズビレッジ」施設公開のようす

「台東デザイナーズビレッジ」施設公開のようす