アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#7
2013.07

市と、ひとと、まちと。

後編 各地に広がる、市の新しいありよう
8)世界一の市のまち ロンドン2 生活の充実感

ロンドン2-1マーケットのようす

ロンドン2-2割とふかん、整然とした..

ロンドン2-3白人カップル

(上から)

(上から)連日、こうして生活市が立つ / 整然と並べられた野菜 / どれが美味しそうか、品定め / 見知らぬ食材も豊富(7、8撮影:村松美賀子)

生活市に関して、ロンドンの当たりまえをひとつ。
わたしが住んでいた南エリアに、ルイシャムというまちがあった。アジアやアフリカ系の移民が多くてカラフルだが、これといった特徴のない、ぼんやりしたところである。ただ、ここには日曜以外の毎日、大きなショッピングセンターの目の前の路上に屋根付きのストール(屋台)がずらりと並ぶ。青果や生鮮、魚などの食材市である。
目の前にショッピングセンターがあるのに、いつ行ってもたくさんのひとがストールに列をなしている。アフリカ系やトルコ系などの住民はここでしか買えない野菜を目指すわけだが、それだけでもない。アングロサクソンのいわゆるイギリス人たちも、無表情で列に並ぶ。だんだん事情がわかってきたが、バナナはここ、じゃがいもはここ、とそれぞれのストールの得意を知って見分け、それを目指して並んででも手に入れるのだ。列の長いストールを2つ3つはしごすると、それだけでかなりの時間がかかるわけだが、淡々とそうしているひとは少なくない。
列に並んで待つことには強い抵抗があったが(あまり楽しいことではなかったし)、気がつけばそうするようになっていた。スーパーで買うより確かに美味しかったから。しかし、買い物する手間は、スーパーよりもはるかにかかる。いくら学生だったとはいえ、数日分の買い物に半日もかけるなんて、時間がもったいないという感覚もあった。でもそれよりも、自分の選んだものを買い求め、生活しているという充実感が心地よかったのだと思う。

さて、高知である。どこのテントの、どの野菜が美味しいか……。真剣に品定めしながら日曜市や土曜オーガニックマーケットを回っていると、ロンドンでの日々を思い出してしまった。生活とはこうして、時間をかけて楽しみながら、選び取っていくものではなかったか、と。