アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#7
2013.07

市と、ひとと、まちと。

後編 各地に広がる、市の新しいありよう
5)高知から他県へ、広がるマーケット 三重の場合

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(上から)由緒あるお寺の境内が会場 /

(上から)由緒あるお寺の境内が会場 / 雰囲気を盛り上げるライヴ演奏 

高知オーガニックマーケットの良い循環は、ほどなく他の地域にも広がっていった。スタートした翌年の2009年には、4月に徳島、11月に高知の幡多、そして12月には愛媛の青空マーケットと、四国の3県でオーガニックマーケットが始まった。隔月だったり月1回だったりと、ペースはゆっくりながら、続けられている。

さらに四国の外にもオーガニックの波は広がっている。代表的なひとつが、2010年6月に始まった「三重オーガニックマーケット」である。生活道具の店とカフェ「而今禾(じこんか))」の西川弘修さんと、事務局の加藤俊介さんが中心となり、つくり上げていった。
高知オーガニックマーケットの弘瀬さんたちに話を聞いて、ガイドラインや原材料の提示などは高知の基準をベースにしながら、三重の関宿ならではの個性を模索していった。目指すは安全で美味しく、そして“美しい”マーケット。ディスプレイや看板なども各店に任せるのではなく、事務局のみんなで話し合って決めている。それぞれの個性は大事にしつつ、センスよく、また江戸時代の面影を残す関のまちなみにふさわしいように……。食べものとともに、場そのものを美しく整えることを試みている。美意識の高い「而今禾」が関わるからこそのこだわりだと思う。

じっさい、この市はいろんな意味でセンスがいい。関地蔵院という寺の境内に20店ほどのこぢんまりした市だが、出店者はよりすぐりで、一軒一軒の個性がはっきりしている。若い世代を中心に、食べ物もそのディスプレイもとても魅力的だ。オープンしてすぐに売り切れてしまう「而今禾」のお弁当やドーナツ、ていねいにドリップするコーヒー。この場でライヴのように作るサンドウィッチ、ヴィーガンカレーに草花の新蜜……。地元の三重だけでなく、和歌山や奈良、京都など関西では知られたお店の出店が多いこともあり、開場前にはいくつものテントに行列ができる。市が始まれば、ミュージシャンが心地よい音を奏で、ライヴもスタートする。その場にいるだけで楽しめる、美味しく素敵な市なのだ。

高知のオーガニックマーケットに始まって、各地で立ち上がったオーガニックマーケットの大元にある思いは同じだと思う。その土地、その場所を大切に、安心で美味しいものを提供し、つくり手と買い手をつなぎたい。それに尽きるのではないだろうか。そのうえで、関わるひとや土地柄が加わり、個性が生まれる。開催を重ねるごとに、その場ならではのつながりも生まれ、育ってゆく。市という場の成り立ちについて、あらためて知る思いがする。

2011年3月、弘瀬さんの呼びかけで第一回オーガニックマーケット全国大会が開かれた。いつもの高知オーガニックマーケットに加え、ゲストのようなかたちで各マーケットから出店者を招いたのだった。結果的には、高知・幡多の「海辺の日曜市」から8テント、愛媛の「青空マーケット」から5テント、徳島「手作りニコニコ市」から3テント。そして四国外の「三重オーガニックマーケット」から2テントの参加となった。

東北大震災直後という日取りとなったが、あえて開催を決めた。弘瀬さんは自分たちのようなマーケットを「小さな経済」と呼ぶ。自分たちの目と手の届く範囲で、ものとひとと、そしてお金を循環させることを指すと思うが、「小さな経済」は世間の景気などと関係なく、それなりに安定させられる。何かあっても、強いのだ。そのことに気づいているひとたちが、各所で動きをおこし、ともに前に進んでいるのだと思う。

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(上から)銘菓「関の戸」を使った「関の戸あんぱん」 /

(上から)銘菓「関の戸」を使った「関の戸あんぱん」 / 而今禾の「晴粒弁当」 / 天然酵母のパンには長い行列が / 無農薬・省農薬の野菜や果物が充実 (撮影:石川奈都子)