7)「ものの魅力が伝わる場」をつくる
そうしてつくり手と長く付き合っていると、当然ぶつかることもある。あらの目立つ商品があがってきたり、サンプルがオーダー通りにあがってこなかったり。そんな時、2人は常に「全体を潤滑にするために今、何が必要か」という立脚点に立ち戻る。
———うまく回っていない時は、まず自分たちに責任があると考えます。エフスタイルという野球チームがあって、つくり手さんも、わたしたち自身も、そのチームに所属している選手という感覚なんです。どのポジションを守っているのかはわかりませんけど(笑)。だから、上下関係は出さない。みんなが腑に落ちる“真ん中”を探す。関わっているひと全員が気持ちよく自分のポジションに集中できる“場”をつくる。そんなシステムづくりこそが、エフスタイルの仕事なのかもしれません。(星野)
自分たちが感じたものの魅力、そこに含まれた豊かなもの。それが、そのまま伝わる場づくり。商品開発だけでなく、検品、タグ付け、出荷までを自分たちで行うのも、ものが消費者の手に届く一連の流れを“場”ととらえているからだ。そこに最も重きを置く2人は、つくり手との関係を密にしながらも、決して彼らを“独占”しようとはしない。
———わたしたちと仕事することで、仕事が増えたり、自分たちでも企画してみようと思う“きざし”が生まれたらいいなと思います。わたしたちは、今やっていることを継続できれば、それでいい。もっと言えば、“循環していくこと”が理想なんです。(星野)
その循環において、ものの魅力を伝える最終地点である、小売店との関係もじっくりと育む。出荷の頻度に違いはあるが、現在の取引先は、ざっと80軒ほど。商品は基本的に受注生産だ。つくり手と同じく、取引が始まる前に時間をかけて話し合いを重ね、長く付き合っていけそうな信頼関係を構築してから、初めて受注・発注のやりとりが始まる。
———お客さんに商品の生産背景などを伝えてくれる“売り手さん”は、とても大事な存在です。お店の方にも、誠実に自分たちがいいと思えるものを伝えてほしいし、売ってほしい。実際、すばらしい接客をされるお店があり、わたしたちも勉強になることばかりです。お客さんに手渡される瞬間にも、商品がつくられているんだ、と感じます。(星野)
2人は2、3年に一度、取引先の小売店で新作の展示会を行い、自ら店頭に立って、手入れの仕方や使い方、その商品がつくられている現場の生産背景などを伝えている。展示会を行う時には、つくり手さんにもなるべく声を掛ける。自分たちのつくった品物がどんな場所で売られ、どんなひとの手に渡っていくのかを見てもらえたら、と願っている。