若林地区・荒浜の日差しは強烈だった。雑草が茂る平らな土地の向こうには、まだ新しい防潮堤が水平に伸びている。その上に、まぶしいほどの青空が広がり、太陽がぎらぎらと照りつける。まばらに並ぶ松の木のこちら側には、建物の基礎や、タイルの浴槽などが残る。そこに掲げられた、黄色の三角旗。平らな景色のなかで、その色はひときわ鮮やかだった。
仙台市内から車で40分ほどのこの場所は、東日本大震災の大津波でほとんどが流された。とはいえ、初めて訪れたわたしたちにとって、かつてあったというすがたを想像するのはとても難しいことだった。立ち並ぶ住宅やそこに住むひとたち、夏に咲く昼顔、漁に出る船……。以前のようすを話で聞き、一角に展示されていた写真を見たり、看板の文字を眺めることで、ようやく少しだけ、こうであったかという像をぼんやりと結べた。
「その前」を知らなければ、語られ、描かれ、撮影された記録を手がかりに、残されなかった、残れなかったものを想像していくしかない。
震災後の東北では、さまざまなひとびとが、さまざまなかたちで記録を残し、伝えようとしつづけている。仙台と宮城においては、文化複合施設「せんだいメディアテーク」がその役割を多く担っている。数々の取り組みのプラットフォームとして、できるかぎりひらいたありかたで、ていねいにアーカイヴをつくり、それを生かすための工夫を重ねている。
「その前」を、どのように今とこれからにつなげていくのか。記録を残すための取り組みについて、アーティストや詩人、NPOの活動家などに伺ってみた。
- 1)プラットフォームをつくり、対話をつづける / せんだいメディアテーク企画・活動支援室 北野央さん
- 2)言葉で輪郭をとる / 3.11オモイデアーカイブ 佐藤正実さん1
- 3)聞いて、語って、体験を同期する / 3.11オモイデアーカイブ 佐藤正実さん2
- 4)”関わりしろ”を見つけ、未来につなぐ / 3.11オモイデアーカイブ 佐藤正実さん3
- 5)誰かの目になって風景を記録し、分け合う手法をつくる / 小森はるか+瀬尾夏美さん1
6)伝えるために、表現を昇華する / 小森はるか+瀬尾夏美さん2
7)言葉にならないことを記し、物語をつくる / 小森はるか+瀬尾夏美さん3
8)思いを取り込み、変わりつづける / 小森はるか+瀬尾夏美さん4
9)詩と聞き書きと 地図をつくる感覚で / 詩人 武田こうじさん
10)固有の記録と、共感を生む表現と