7)絶望を希望に変えるために
モリさんは2026年で40歳になる。「たみ」やジグシアターを運営するのも同世代。ここ数年は、次の世代が新たな動きを始めやすい環境を整えていきたいと思い始めている。
———この物件(汽水空港)に出会った時、ゴッドマザーの大家さんがまだ元気で生きてたから、「好きに使っていいよ、家賃もいらんよ」って言ってくれたから、ここでやってこれた。そういう環境を引き継いでバトン渡していきたいんですよ。
まちに来てから、60代や70代の方々に聞いた話を、モリさんは自分たちとこれからの世代につなげて考えている。
———上の世代の人と話していると、「昔はこのへんも賑やかだったなあ」とよく聞きます。賑やかだった当時を知る人からすると、「あの店がなくなった、この店もなくなった、あいつも東京行った、大阪行った」で、だんだんとまちが静かになっていく一部始終を見つめ続けていたんだろうと思います。新しい店や旅館ができたりしてまちがその都度刷新されていくという体験がないというのは、どんな感じなんだろう。
もし、この先10年の間にまちに人が来なくて、新しい店ができなかったりしたら、自分たちの世代も、静かに絶望し始めるんじゃないかなあ。「昔は良かったよね、みんなで田んぼやってさ」みたいに。そうしたら、自分の子どもにも「鳥取は出ていったほうがいいよ、もっと良い場所行きなさい」とか言ってしまうかもしれない。
だから、今から5年くらいのうちに、できれば全く未知の店や人に来てほしい。かつての自分と同じように「何かしたい」っていうノリで、金もない車もないという無謀な若者がふらっと来ても、「何かやれる」という雰囲気と、実際の環境も整えていきたいなと。そういう視点も持って、まちに働きかけていったほうが絶対いいだろうと思ってます。
今を生きる人たちの横のつながりと、これまでとこれからを生きる人たちの縦のつながり。スケールが大きいようでいて、モリさんにとってはどれもDIYの延長にある感覚だという。食べものや店の建物、自営業の仕事も。さらに、まちの生態系も、そしてまちそのものさえも。もちろん、まちづくりはひとりではできないけれど、「自分が出した落ち葉のようなものが、まちを、まちの土を豊かに豊かにしていく」ことを願っている。

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地域で「農業と本屋」をやるというモリさんの「実験」は、店に集う人たちや仲間を得るなかで、まちづくりにもつながっていった。自分ごととは、社会のことでもある。「地域のために」というきれいごとにとどまらない、モリさんの誠実な言動は、これからの社会に対する希望の光のようにも思える。
謎の本屋は、謎のままでもいい。この店を面白がってくれる人がひとりでもふたりでも増えて、まちの生態系が変わっていくようすを、これからも見ていきたい。
次号では、廃校となった小学校跡にオープンしたミニシアター「jig theater(ジグシアター)」、湖に浮かぶような絶景のカフェ「hakusen(ハクセン)」を紹介したい。
ライター・編集者。1983年生まれ、尼崎市出身。アジアを読む文芸誌『オフショア』の編集・発行人。2015年より約5年間那覇市に暮らし、現在は神戸市在住。
山形県出身、京都市在住。写真家、二児の母。夫と一緒に運営するNeki inc.のフォトグラファーとしても写真を撮りながら、展覧会を行ったりさまざまなプロジェクトに参加している。体の内側に潜在している個人的で密やかなものと、体の外側に表出している事柄との関わりを写真を通して観察し、記録するのが得意。 著書に『ヨウルのラップ』(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀在住。著書に『しゃべって、しゃべって、しゃべクラシー! 憲法・選挙・『虎に翼』』(タバブックス)。
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、言葉や本に関するワークショップや展示、イベントなどを行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。


