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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#152
2026.01

41年目の東川町 文化のまちづくりを俯瞰する

2 重ねつづける拠点「せんとぴゅあ」  北海道・東川町
5) 行政も町民も 公共施設を使いたおす

貴重なアーカイブや日本語学校があったとしても、そこに「交流」が生まれなければ、場は生きてこない。この交流の原動力になっているのが、イベントだ。「せんとぴゅあ」の重要な特徴の一つが、規模を問わずイベントがとても多いことだろう。町が企画する展示やイベントはもちろん、町民が自主的に立ち上げるイベントも日常的に開かれている。

この背景には、東川町が長年「写真の町」事業を自前で運営してきた経験がある。前号でも触れたとおり、「写真の町」は企画会社の提案からはじまったのだが、その後、大きな危機に直面する。

企画・運営を一手に担っていた企画会社が2005年に倒産。「フォトフェスタ」や「写真甲子園」の開催を目前に控えていた役場は一時騒然となった。だが職員たちは、外部に頼らず、自分たちの手でイベントを継続する決断を下す。「あの非常事態を乗り越えた経験が転機となり、職員が自ら考え、イベントや企業連携のノウハウを蓄積していった」と、副町長・市川直樹さんは語っている。

文化交流課でも、アーカイブを活用した展示やイベント、「高校生国際交流写真フェスティバル」など国際交流イベントを開催しながら、企画・運営のノウハウに磨きをかけてきた。そうした背景もあり、「せんとぴゅあ」は展示設備や音響機材など、イベント開催に必要な環境がとても充実している。「ポスターやチラシも自前でつくれますし、翻訳も何語でも対応できます。それは町の大きな財産だと感じています」と高石さんは話す。

———写真の町事業がきっかけで、もともと展示のキュレーション、ライティング、ポスターなどのデザインをできるスタッフが役場にいるんです。図書のPOPも、そのクオリティに引っ張られて、どんどんよくなっているんですよね。同じ場所で、一緒に仕事をしているので。
この施設は視察も多いのですが、壁に貼ってあるポスターやチラシが文書作成ソフトでつくったものではないことに驚かれたりします(笑)。

さらに、最近では、町民が主体となった取り組みを後押しするため、イベントを助成する制度がつくられた。最大30万円の助成を受けて、企画したイベントに挑戦できる仕組みだ。こうしたバックアップもあり、「せんとぴゅあ」の稼働率は年々上がっているという。

———ここを使っていいんだって思う人は増えていますね。まちの中心で、多くの人が一番来やすい場所なので、盆踊りの会場にもなっていますし、クリスマスマーケットもある。ライブ、フェス、ダンスイベントなど、さまざまな活用のされ方をしています。
行政ではそういった自然発生的な住民の動きをコントロールするのではなく、やりたいことの背中を押しながら、文化展示のレベルも一定以上のものに保っていくーーそんなことを大切にしたいと思っています。

2022年から始まったクリスマスマーケットは、東川町の一大イベントのひとつ。せんとぴゅあⅠ、Ⅱ全体を会場として活用し、他の施設も巡りながら楽しむ。町内の木工家具事業者によるインテリア展のほか、飲食、雑貨、ワークショップなどおよそ100店が集う(写真提供:東川町)

2022年から始まったクリスマスマーケットは、東川町の一大イベントのひとつ。せんとぴゅあⅠ、Ⅱ全体を会場として活用し、他の施設も巡りながら楽しむ。町内の木工家具事業者によるインテリア展のほか、飲食、雑貨、ワークショップなどおよそ100店が集う(写真提供:東川町)

町が環境整備することで、町民の動きが生まれ、無数の交流につながっていくーーそんな循環が「せんとぴゅあ」に場の活力を与えている。環境設定によって、場の使われ方は変わっていく。

子どもから高齢者まで、いろんな国籍の人が集まり、交流を重ねる広場のような場所。こうした施設のあり方が評価され、「せんとぴゅあ」は、2023年には第18回公共建築賞 国土交通大臣表彰(主催:一般社団法人公共建築協会)を受賞している。

では、いったいなぜこのようなユニークかつ活力のある文化施設ができあがったのか。次号では、設計者などにも話を聞き、文化施設のあり方をさらに掘り下げてみたい。

せんとぴゅあ https://higashikawa-town.jp/CENTPURE

取材・文 /  末澤寧史(すえざわ・やすふみ)
ノンフィクションライター・編集者。1981年、札幌生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。出版社勤務を経て2019年に独立。編集した本に『東川スタイル』(玉村雅敏・小島敏明/編著、産学社)。Yahoo!ニュース 特集で「ちょうどよい『適疎』の町へ― 北海道東川町、人口増の秘密」を取材・執筆。2021年に出版社の株式会社どく社を仲間と立ち上げ、代表取締役に就任。絵本作品に『海峡のまちのハリル』(三輪舎、小林豊/絵)。共著に『わたしと「平成」』(フィルムアート社)ほか多数。本のカバーと表紙のデザインギャップを楽しむ「本のヌード展」主宰。

写真:成田舞(なりた・まい)
山形県出身、京都市在住。写真家、二児の母。夫と一緒に運営するNeki inc.のフォトグラファーとしても写真を撮りながら、展覧会を行ったりさまざまなプロジェクトに参加している。体の内側に潜在している個人的で密やかなものと、体の外側に表出している事柄との関わりを写真を通して観察し、記録するのが得意。 著書に『ヨウルのラップ』(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/

編集:浪花朱音(なにわ・あかね)
1992年鳥取県生まれ。京都の編集プロダクションにて書籍や雑誌、フリーペーパーなどさまざまな媒体の編集・執筆に携わる。退職後は書店で働く傍らフリーランスの編集者・ライターとして独立。約3年のポーランド滞在を経て、2020年より滋賀県大津市在住。

ディレクション:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、言葉や本に関するワークショップや展示、イベントなどを行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。