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アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#148
2025.09

サステイナブル・ファッションの現在 イギリスから考える

1 ファッションで社会改革する

1)ファッションの社会運動
フランチェスコ・マザレラさん1

2024年4月に渡英して、知人からフランチェスコ・マザレラのことを教えてもらい、彼が参加するサステイナブル・ファッションをテーマにしたトークイベントを見に行った。ところが、彼の話はイギリスに来た難民とともにおこなう活動についてだったので、正直に言うと戸惑いを感じた。サステイナブル・ファッションとどう関係があるのか、よくわからかったからだ。彼は「ファッション・アクティビスト(ファッションの社会運動家)」を名乗っているが、ファッションと社会運動の結びつきにも違和感があった。

しかし、彼の話をよく聞くと、こういう形のサステイナブル・ファッションもあるのか、という新たな気づきを得ることになった。たとえば、最新のプロジェクト「ファッションとテキスタイルを脱植民地化する(Decolonizing Fashion and Texitle)」について見てみよう。
EU諸国と並んで、イギリスでも数多くの難民を受け入れてきた。元来この国は旧植民地、コモンウェルス諸国からの移民が少なくなく、とくに都市部は多くの民族・人種が共存しているが、近年は戦争や紛争の増加により、多くの難民、亡命希望者がやってきている。
LCFは2023年オックスフォードサーカス、その他にあるいくつかの建物から東ロンドンのストラットフォード(クイーン・エリザベス・オリンピック公園内)にキャンパスを移転した。この地区は難民、移民、低所得者が多く住んでいて、移転はフランチェスコが現地の問題にかかわるきっかけとなったようだ。難民たちは異国での不安定な生活(住居、貧困、メンタルヘルス、暴力、人種差別など)に直面している。政府に難民申請が認められるまで働くこともままならず、英語が不自由な場合もあり、地域で孤立したり、排除されることになりがちである。
そこで、彼はまず難民たちと「ストーリーテリング・セッション」をおこない、彼らのニーズや希望を把握した。彼らは移住の旅、地域の生活、個人や文化のアイデンティティ、未来への希望などを語り、話し合う。
その後、共創ワークショップを実施し、参加者のアイデンティティや文化を表現する「ファッションコレクション」(服やテキスタイル、アクセサリー、装飾)を共同でデザインし、ファッションショーや展覧会などを開催したのであった。LCFのスタッフ、学生、外部の専門家、ボランティアの力を借りて、参加者に服やキルトの製作、ショーのモデルをしてもらうよう手助けする。
最後に、一連のラウンドテーブル・ディスカッションを通して、政策立案者やファッション業界関係者、難民支援団体に、英国における難民のより良い状況を求めるための政策提言活動をおこなった(*)。多くの関係者や団体がかかわり、資金を獲得、時間とエネルギーを擁する大規模なプロジェクトだ。

フランチェスコ・マザレラさん

フランチェスコ・マザレラさん

もうひとつ、2019年にフランチェスコが手がけたプロジェクトもロンドン東北部、ウォルサムフォレスト区でおこなわれたものだ。この地区はかつて中小の服飾産業が栄えていたが、その多くは廃業し、産業の衰退、技術者不足、失業、若者の貧困などが問題となっていた。
彼は地域に入り込んでフィールドワークをおこない、地域に残っているいくつかの服飾企業(レザー工場、ジーンズ工場、織物工場など)に働く高齢の職人たちと接触を重ね、彼らと地元の子どもや若者たちとのワークショップ、失われつつある職人技術を記録するなど、LCFのスタッフや学生たちと取り組んだのである。彼はこれを「変革のためのもの作り ウォルサムフォレスト・プロジェクト(Making for Change: Waltham Forest Project)」リンクhttps://www.sustainable-fashion.com/making-for-change-waltham-forestと名づけている。
ちなみに、この地区には生活費が安いためアーティストが移り住み、移民も多く住民の人種構成も多様。また、ウィリアム・モリスのコレクションを集めたウィリアム・モリス・ギャラリーがあるなど、職人、アート、デザイン、ファッションや多文化共生が土地の重要な文化的アイデンティティとなっている。こうした歴史や文化を再発見して、地域を活性化させるプロジェクトである。

フランチェスコの活動は日本でいうソーシャルデザインにあたるのかもしれないが、本人は「参加型ファッション実践(Participatory Fashion Practices)」と呼び、「ファッションを通した社会改革を目指す」アクティビズムだという。なぜこの活動をするのか、本人に聞いてみることにした。

(*)フランチェスコ・マザレラさんの講演「Participatory Fashion Practices for Cultural Sustainability and Social Change」より。 2025年1月9日、ヴィクトリア&アルバート博物館にて開催

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難民や移民とのプロジェクトを複数進行させてきた。彼らのアイデンティティにつながる布や衣服を用いる内容だ

難民や移民とのプロジェクトを複数進行させてきた。彼らのアイデンティティにつながる布や衣服を用いる内容だ