1)ケアとクリエイティブを分けない
ラボラトリオ・ザンザーラ1
エレガントなアパートメントが立ち並ぶ、トリノの閑静な住宅街。大きな通りを抜けると、石畳の小道にカラフルな色合いの一角があらわれる。
ポップで味わいのあるイラストに手描き文字。スモーキーな色のトーンや、力の抜けたテイストも絶妙だ。陽気なそれらはニュアンスも豊かで、チャームがある。「ラボラトリオ・ザンザーラ」(以下、ザンザーラ)の外観に、心をぐっとつかまれる。
さらに、店内がまた魅力的なのだ。動物や植物などをモチーフにした大小の張り子。線のかすれなども良いかげんで、存在感がある。その他、クッションやハンカチなどの布ものに、言葉がプリントされたTシャツ、額装されたポスターなど、など。カラフルな紙と布の商品が空間いっぱいにディスプレイされている。
目をぞんぶんに楽しませてくれる、エネルギーに満ちたクオリティの高い空間。ここは知的障がい者のサポートを行い、社会参加を促進する福祉施設なのだけれど、そうであることをまったく感じさせない。そして、そのことはどこにも明示されていない。
ザンザーラは、このショップと工房から成る。ショップにいると、奥にある工房のようすが目に入る。2階には事務所スペースと、ワークショップなどを行える広い空間も作った。
この施設のディレクターはジャンルカ・カンニッツォさん。グラフィックデザイナーとして活動する一方で、ザンザーラでは知的障がい者のケアや教育なども手がけ、彼らに仕事を提供している。
———イタリアには社会的な協同組合のようなもの(コオペラティーヴァcooperativa)があるんですが、ザンザーラは、A型(サービス提供)とB型(就労支援)の両方を兼ねる組織なんです。
スタッフは5人、利用者は18人います。スタッフで彼らのケアをしながら、商品をいっしょに作っています。「ケアはケア、制作は制作」じゃなくて、こういったこと(商品作り)のなかで彼らも学んでいくし、その場でケアもしている、という形態が最初からできていましたね。
大事なことは、ラボにいる人全員に役割があって、それぞれがインディペンデントに機能すること。どのプロジェクトにも全員参加しています。誰かが主役ってことはない。得意な分野は人それぞれなので、「ここは全部任せてもいい」ってことであれば、僕たちが口出しすることはない。逆にサポートが必要な人もいます。でも最終的には毎回ほぼ全員が参加するようなかたちにはしています。
全員がかかわるなかで進められる、福祉施設でのものづくりのプロジェクト。そこで生み出されるのは、クオリティの高い「商品」だ。
———何かを作るときには純粋なアート作品ではなくて、最終的には商品になっていくようなプロジェクトをやっています。ひとつには、全体のテイストが揃っていないと、まとまった商品として売りにくい、ということがあります。また、「福祉のもの」「障がい者のもの」だとお客さんがかまえてしまって、怖がられることもあります。このポップなテイストっていうのは、気楽に受け取ってもらえるひとつのランゲージですから。
よく「障がい者がつくっているから」というフィルターで見てもらって販売するところがあるんですけど、ここは絶対にそれをしない。多少高いかもしれないけど、必ずクオリティで買ってもらえるように「いいもの」をつくっています。そういうポリシーがあります。
全体を統括する演出家の立場にいるので、やらなければいけない選択は自分がします。完成したもののクオリティはよくないといけないから、線や文字などは描いた人の特徴を生かしますが、どの絵にするか選んだり、色を付け加えたりもします。彼らの「作品」としてさわってはいけないという思いは全くないです。
彼らの個性を引きだし、それを生かした商品を作る。利用者とスタッフのコラボレーションともいえるが、その意味は大きい。彼らが社会に参加し、経済的に自立することにもつながっていくからだ。

商品は誰でも何かが買えるように、ポストカード1枚からTシャツ、テキスタイルなど充実のラインナップだ。「ZALESKINE」のようにユーモアの効いた商品も。言葉には意味もあるが、何より手描きの味わいがとても良い