4)終わりが見えない 保存修復の険しい道
2021年から22年にかけては順調に協力者も増え、保存修復も進んだように見えた。21年度には集まった寄付金と、佐渡市の雇用機会拡充事業に応募して獲得した補助金の計500万円で、西洋館の外壁塗装と瓦屋根葺き替え、電気・水道の工事や畳の入れ替えなどを行った。22年5月には、佐渡島の10か所の常時公開されていない寺社や邸宅を一斉公開する催し「佐渡まるごとミュージアム」の一環で2週間、入場料1,500円で建物を一般公開。さらに10月1日からは日本館2階を美術工芸ギャラリーとしても公開しはじめた。
その一方で、建物の構造に潜在する課題も明らかになってきた。日本館1階の床付近の木材が腐食し、重篤なシロアリ被害を受けてボロボロになっていることが判明したのだ。旧若林邸は斜面地にあるため、大雨が降ると位置の低い日本館1階に雨水が流れ込む。しかも排水路が隣接地との間で遮断され、雨水が建物内に貯まってしまう。このことが災いし土台や柱が、長い年月をかけて腐り果てていたわけだ。
———ガッシリとした建物なので、譲り受けた当初は大丈夫だと思っていたのですが……修繕に必要な工事の見積をお願いしたらとても支払えない金額が出てきて、気絶しそうになりました。
それでも古玉さんは東日本鉄道文化財団の地方文化事業支援に応募し修復に使うことができる年間300万円×3か年の資金を獲得するなど、解決策を模索した。2023年度以降は建物の公開を一旦打ち切り、根本的な修繕へと邁進した。まずは床を剥がし、梁をジャッキアップして土台を交換した。しかし今後も、傷んだ柱を部分的に根継ぎするなど大がかりな修繕が必要だ。
また排水の妨げとなっていた隣家との境界に排水路を通すべく、交渉により隣家の譲渡も受けた。節約のため隣家の解体は重機を使わずに、自分たちで手作業で行った。解体してみると隣家は、旧若林邸日本館の屋根の一部を切り取る形で建っていたことも判明し、さらなる修繕の必要性が明らかになった。
問題解決のために動くと、さらなる問題が明るみになる。いたちごっこのような修繕プロセスがつづいてゆく。