アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

TOP >>  特集
このページをシェア Twitter facebook
#124
2023.09

千年に点を打つ 土のデザイン

3 焼きもの×福祉×場 千年の先へ
コラム INAXライブミュージアム 土・どろんこ館

最後に、INAXライブミュージアムとワークセンターかじまが協働しているどろだんごワークショップの話を。
INAXライブミュージアムは、株式会社LIXILが開設する文化施設。煉瓦造の煙突をランドマークに、大正時代の土管工場を保存・公開する「窯のある広場・資料館」「世界のタイル博物館」「建築陶器のはじまり館」「土・どろんこ館」「陶楽工房」「やきもの工房」の6館からなる。貴重なコレクションの公開から、誰もが参加できるワークショップの開催まで、土と焼きものの歴史や文化を伝え、身近に感じられる、厚みのある活動を行っている。
そのうち、かじまと関係するのは、土・どろんこ館での体験教室「光るどろだんごづくり」。焼きもの用の粘土と道具を使った、60分の楽しい時間だ。館ができて以来のヒット企画だが、広報を担当する竹内綾さんによると、TikTokで紹介されたこともあり、ここ最近は平日も大人気だという。

2023060102-0931

———人気のあまり、どろだんごが足りなくなると、無理をお願いしてかじまの方につくってもらうことがあります。なかなかかじまさんのような良い形にはならないんです。かじまさんの方たちは土を扱い慣れていらっしゃるから、あらためてありがたさを感じていますね。ご近所さんであることも助かります。

水分含んだ粘土の「タネ」を真ん丸になるように削り、化粧泥を塗って色をのせ、瓶の口で磨いて光る球体をつくっていく。焼きものの粘土は粒子が細かく平べったいので、押さえつけているとよく光るようになる。焼きもの粘土ならではのものづくりだ。

2023060102-0924

2023060102-0925

———粘土から完全に水分が抜けるまで2週間くらいです。体験教室でつくったものを持ち帰ってもらって、「おはようころころ おやすみころころ」と言っているんですが、朝晩、手のひらで転がすことで乾燥を繰り返します。そうやって2週間手入れすることでさらに光るようになるんです。

かじまの利用者がつくったタネが、全国に、世界に旅立ち、光る球になる。土から始まる無数の光は、今の常滑らしい発信にも思える。

2023060102-0928

土・どろんこ館は、職人技術が駆使されている常滑大壁と、ワークショップで参加者が手づくりした日干し煉瓦の壁との対比が楽しめる空間。体験教室はこちらのホールで。「NEW TRADITIONAL展 in 常滑」展が行われたのは、この奥にある企画展示室

高橋孝治
https://takahashikoji.com
構成・文:村松美賀子(むらまつ・みかこ)
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、展示やイベント、文章表現や編集、製本のワークショップなども行う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノニマ・スタジオ)など多数。2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。
写真:津久井珠美(つくい・たまみ)
1976年京都府生まれ。立命館大学卒業後、1年間映写技師として働き、写真を本格的に始める。2000〜2002年、写真家・平間至氏に師事。京都に戻り、雑誌、書籍、広告など、多岐にわたり撮影に携わる。クライアントワーク以外に、人々のポートレートや、森、草花など、自然の撮影を通して、人や自然、写真と向き合いながら作品制作を行っている。https://www.instagram.com/tamamitsukui/
編集:竹添友美(たけぞえ・ともみ)
1973年東京都生まれ。京都在住。会社勤務を経て2013年よりフリーランス編集・ライター。主に地域や衣食住、ものづくりに関わる雑誌、WEBサイト等で企画・編集・執筆を行う。編著に『たくましくて美しい糞虫図鑑』『たくましくて美しいウニと共生生物図鑑』(創元社)『小菅幸子 陶器の小さなブローチ』(風土社)など。