アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

特集 地域や風土のすがたを見直す、芸術の最前線

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#124
2023.09

千年に点を打つ 土のデザイン

3 焼きもの×福祉×場 千年の先へ
5)等価の発想で 江戸時代のタイルテラスから
ワークセンターかじま3

ニュートラ展で生まれたかじまと地域とのつながりは、着実に育っている。出展した作家の鯉江明さんや窯元の山源陶苑・鯉江優次さんも、かじまでサタデーワークショップを行うときなどにはよく手伝いに来てくれる。
また、それはかじまのなかだけにとどまらない。高橋さんは自身の営む店に、かじま利用者の作品を置こうとしている。

———事務所の前を店にしようとしていて(2023年8月現在、臨時店舗で不定期営業中)。動機としては、僕が関わっているかじまや名古屋の福祉施設でつくるものを、福祉の商品といわずに「いいものだね」といって売りたいというのがあって。鯉江明さんの焼きものや拾った陶片、杉江さんのブロックプリントなどを、全部同じように扱いたい。個体差があったりとか、同一商品でもゆらぎがあっていいと思っているんですよね。

店の床には、明さんの土を混ぜものをせず、そのまま敷いている。「いけるんじゃない?」という明さんの柔軟な一言で決まった。誰かが来るたびに踏みしめられ、日々変化していく。訪れる人みなでつくる土の作品にも思える。水野製陶園で制作したタイルを敷いた部分もあって、ゆるやかなチームの協働が行われている。

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桜庭さんが、これまでを振り返るように言う。

———高橋さんのデザイン関係のネットワークと福祉の領域のネットワークって全然違うんだけれども、ふだんあまり接点のないところと関わることで、利用者さんの可能性が広がっているっていうのはすごく実感しています。よく福祉の業界では職種連携とか異職種連携が大事だよって言われていて、こうやって交わることで障がいのある人を理解してもらえたり、障がいのことだけをやるんじゃなくて、ものづくりとか地域の地場産業や伝統と関わりながら利用者さんの可能性も広げつつ地域の方たちにとってもいい場となるように、開かれた施設となるように交わることで、いい化学反応みたいなものが生まれているのかなって思うので、すごくありがたいです。

かじまでは、2023年末から2024年始めの完成をめざして、改修工事を行う予定だ。庭の一部に店もつくる。

———水野さんに改修工事をお願いして。かじまでの取り組みも機が熟してきて、「開いていく」ということがチームで目指せるようになっているので、いよいよかなっていう感じがしますね。かじまで生まれた商品や作品を、コーヒーでも飲みながら観てもらえる場にします。(高橋)

具体的なプランはまだこれからだが、杉江さんたちの作品の商品化なども考えているという。利用者のデザインのセンスや能力を引き出し、それが彼らの仕事にもなるという流れだ。高橋さんの店もふくめ、「良いもの」を等価で扱うという、当たり前のようでなかなか実現されなかったことが、ここから始まろうとしている。わくわくする。
店の敷地には、タイル床のテラスが設置される予定だ。さまざまな奇跡が重なって、かじまにやってきた江戸末期のタイル。まちの誇れる遺産でもある。

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水野太史さん

———古くからやっている「杉江製陶所」という大きな焼きものの工場があって、そこの事務室の床がショールームも兼ねてタイルの床になっていたんです。製陶所は取り壊されることになったんですが、保存運動が起こって。京都の建築史家と東京の編集者が発起人で、彼らが中心となってイベントやクラウドファンディングで集めた資金とたくさんの有志の努力で、最終的に実現したんです。(水野)

———レスキューできたところで、次のフェーズで移行したいんだけど、民間ではなく、公的なところに、という話になって。太史くんが(かじまを)改修しているというところで話をつないでくれて、まさかのかじまにやってきたんです。クラウドファンディングをやっていて、かじま的には受け入れだけでいいという条件があったので、それだったらって。 (高橋)

まさに、地域の産業と福祉をつなぐ象徴的な話だと思う。保存委員会のメンバーでもあった水野さんが言う。

———リニューアルするときだったので、かじまとしてもこういうのがあったほうがよかった。新しい事業として、タイルや焼きものに関わる商品もつくれたらいいって話していたところなので。そのシンボリックなものとして来たのはよかったと思います。INAXライブミュージアムや陶芸研究所、陶磁器会館など、常滑に焼きものを見に来た人が必ず立ち寄るような場所のひとつになったらいいな、と。今それを目指しています。

タイルテラスの設置は、高橋さんが粘土を掘り出したすぐ側となった。
掘り出した土から始まった、高橋さん、水野さん、かじまの桜庭さんたちの軌跡は、利用者の可能性をひろげ、選択肢を増やし、地域や地域産業とも新たな文脈でつなぐものだ。展覧会にイベント、店など、いくつもの筋が束となった焼きものと福祉のありかたは、ゆらぎがあって、しなやかだ。

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