3)「おるたなさん」という第3の存在
この日は、七夕飾りの笹を地域の自治会長さんと一緒にスタッフの人がトラックに乗って持ってきた。公園で遊んでいた子どもたちが駆け寄ってくる。このスタッフは、「おるたなさん」と呼ばれる子育て支援員だ。保育士の補助的な業務を行う人のことだが、いふくまち保育園では「保育士でも保護者でもない、第3の存在(オルタナティブ)として、おるたなさんと呼んでいる」と、酒井さんは説明する。
いふくまちとごしょがだに両園は、さまざまな人がかかわる余地が大きい。保護者が行事や参観日にとどまらず活動に参加できるだけではない。保護者でなければ、保育者でもない、さまざまなバックグラウンドを持つ大人がかかわる余白を持っていて、驚かされる。
通常の保育園にいる常勤の保育士や看護師、事務員のほかに、子育て支援員の資格を取りパートで勤務するおるたなさんが両園で約10人、ボランティアのおるたなさんも数人いる。「おるたなさんは保護者と保育者の間に立ってくれる存在ともなっている」と酒井さんは言う。
おるたなさんは地域住民や保護者の知り合いが中心ではあるが、実に多様だ。年齢層も20〜70代まで幅広い。ヘアメイクアップアーティスト、玄米おむすび屋の社長、ヨガインストラクターなど、さまざまな技能や特技を持つ人がいれば、進路や居場所を探してたどりついた人たちもいる。LGBTQでも、外国人でも、どんな人がいてもいいし、どんな人にもかかわる余地がある。子どもたちは多様性のなかで生きるとは何かを肌で感じ育っていく。
———おるたなさんには、保育士や保護者とは違う、斜めの関係からかかわってもらうことで、新しい風を吹かせてもらうことを期待しています。手づくりのおもちゃを提供してくれたり、ユーモラスな新聞をつくってくれたり。自発的に場を活用して、子どもと一緒に学び合う姿が見られるのはうれしいです。
子どもとかかわると、社会のことがより身近に考えられます。抽象的になりがちなSDGsや地球環境のことも、子どもが育つ社会がどうあってほしいかと想像すると、今すべきことが具体的に見えてきたり。さらに保育園では、子どもが目の前にいるので、一緒に考えることができる。そして、そのことを子どもは、「やらなきゃいけない」という感じでもなく、楽しくてわくわくするやり方で乗り越えていくんですよね。遊びながら解決していくというか。そういうプロセスを見ているだけでも、子どもが育つ場所は、大人が育つ場所でもある気がします。人間関係や日々の暮らしを豊かにする方法も、子どもたちから学ぶことが多いですね。