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アネモメトリ -風の手帖-

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#181

闇の中の白
― 川合健太

闇の中の白

(2016.09.18公開)

東京・表参道にあるEYE OF GYREというギャラリーで開催されているチームラボの個展『teamLab: Transcending Boundaries 』に行ってきた。老若男女に大人気のウルトラテクノロジスト集団の展示とあって混雑しているかと身構えたが、夏休みも終わったあとだったためか、ほどよい人出の中、作品を体験することができた。目的の作品は『人に咲く花/Flowers Bloom on People』。この作品は、鑑賞者がいなければ真っ暗なギャラリー空間で、中に入ると、体に花々が咲いていく仕組みになっている。もちろん本物の花が咲くわけではなくて、咲いていくのは、コンピュータープログラムによって、リアルタイムで描かれ続けている花の画である。事前に確認したギャラリーの案内には「白」というドレスコードが指定されていたので、いつも着ているギンガムチェックのシャツはやめて、あらかじめ持っていた白いシャツを着て出かけた。

ギャラリーはそれほど大きなスペースではなく、入口の黒いカーテンをくぐると、いきなり作品と対峙する構成になっていた。暗闇に身を置いてしばらくすると、チラホラと花が咲き始めた。最初は花の種類や咲き方が一定のリズムになっているように思いきや、不規則に次から次へといろいろな種類の花が現れては消えてを繰り返している。花は白い服のところでは鮮やかに咲いて、そうでないところには、あまりうまく咲かないようだ。試しにと持参していたゆで卵を手に持ってみたら、ゆで卵単体には咲いてくれず、白い服の前に持っていくと咲いてくれた(写真参照)。20分ほど体験しただろうか、結局最後までどのようなルールに従って花の画が描かれ続けているかわからなかったのだが、まわりにいる人から「あ、あの人にはきれいに花が咲いているね」と羨望の眼差しで見られていると勘違いしていたせいか、じわじわと自分の身の回りに花が咲いてくれる様は、意外に心地よかった。ギャラリーをあとにする頃には、花はひっきりなしに私の体に咲いてくれた。

展覧会を観た後、少し時間をおいて、神楽坂に出かけた。神楽坂のカフェで友人たちとおしゃべりして外に出ると、すでに日は暮れていて、あたりは暗くなっていた。そうして、夜空を見上げたら、ちょうど私たちの正面に薄く切った白いカマボコのような弓張月が浮かんでいて、皆申し合わせたように「月がきれい!」と言った。

翌日、仕事を終えて、地下鉄から地上の出口に上がったら、また正面に月が浮かんでいた。ぼんやりそれを眺めながら歩いていたら、突然、何かわかったような気がした。今、私の前に浮かんでいる月は、太陽の光を浴びて輝いている。太陽が花のように咲かせている光を浴びて輝いている。そんな月の姿と、前日の作品を体験している鑑賞者の姿とが重なった。あぁ、あれは夜空に浮かぶ月と似た光景なのかもしれない。そう気がつくと頭の中が真っ白になってしまった。