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アネモメトリ -風の手帖-

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#383

説明会進化論!~参加者も主催者もハッピーになる方法~
― 早川克美

図1

プロローグ:静寂を破る怒号、あるいは「私」という名の演説会場
先日、とある行政の説明会に参加したときのことだ。登壇者が丁寧に説明を進めていると、突然「おかしいぞ!」「やめろっていうんだ!」と怒声が飛んだ。質疑応答タイムになると、今度はマイクを握った参加者が「私は長年この問題に取り組んできまして…」と、なぜか持論を延々と展開し始めた。

説明会という名の小さな劇場。そこでは、しばしば予想外のドラマが繰り広げられる。舞台の中心でスポットライトを浴びるのは、主催者だけではない。観客席から突如現れる、時として平和な空気を切り裂く「ヤジ将軍」や、マイクを独占する「持論マン」。彼らは、静寂を切り裂く怒号、あるいは長編叙事詩のような質問を武器に、自己表現という名の戦いを挑むのだ。「ちょっといいですか!」と、進行を無視して飛び出す声。その声の主はヤジ将軍。質問という名の持論を、延々と語り始める。「私が思うに昔は…」「それはですね、〇〇という理論に基づいているんですよ…」と、話は脱線に脱線を重ね、会場全体が重い空気に包まれる。

こうした光景を目の当たりにして、「なぜ説明会ではこういうことが起こるのか? どうしたらもっとスムーズに議論できるのか?」と考えずにはいられなかった。
なぜ、彼らはこのような行動に出るのだろうか。それは、彼らが「聞いてほしい」という強い欲求を持っているからかもしれない。あるいは、「自分はこんなにすごいんだぞ!」という承認欲求の表れかもしれない。いずれにせよ、彼らは自分の内なる声を、誰かに聞いてもらわなければ気が済まないのだ。
しかし、彼らの行動は、しばしば周囲の迷惑となる。せっかくの説明会も、彼らの独壇場と化し、本来の目的から大きく逸れてしまう。そこで今回は、説明会の進化について、参加者も主催者もハッピーになれる方法を探ってみたい。

まず、開演前に「本日のルール」を明確にすることが重要だ。まるで「説明会憲法」を制定するかのごとく、質問の方法や時間制限など、「質問は簡潔に」「発言は一人1分まで」というように、具体的なルールを共有することで、参加者全員が共通の認識を持つことができる。また、「持論を語る場合は後で喫茶店で!」といったように、ユーモアを交えて説明すると、誰もが納得しやすくなるだろう。

次に、質問方法を工夫することも有効だ。スマートフォンからの書き込みや、付箋を使った質問回収は、発言者の特定を防ぎ、匿名性を確保することで、発言しやすい雰囲気を作り出す。長々とした演説は防げるし、ちょっと過激な質問も後から時間をかけて回答するようにできるのがうれしいポイントだ。

そして、グループトークを導入して、「俺の話を聞け!」という欲求を満たす仕組みをつくるのも有効だろう。例えば、4人グループで5分間のおしゃべりタイムを設けることで、参加者全員が発言の機会を得られる。これにより、「自分の話を聞いてもらえなかった」という不満を解消し、建設的な議論を促すことができる。議論を円滑にまわすためにファシリテーターの存在があると尚良いだろう。

それでもなお、持論マンの熱弁が止まらない場合は?そんな時は、司会者のユーモア力を発揮することも重要だ。「〇〇さんの熱意、しかと受け止めました!」「〇〇さんのご意見、大変参考になります!…が、そろそろ次の方にバトンタッチしてもよろしいでしょうか?」など、相手を尊重しつつ、場を収める言葉を用意しておくと良いだろう。ユーモアで会場の空気が穏やかになり、緊張がほぐれると、人は攻撃的になりにくく、ヤジ将軍も刀を鞘に収めてくれるかもしれない。

エピローグ:みんなが気持ちよく参加できる説明会を目指して
説明会は、参加者みんなが学び、対話する場のはず。でも、ヤジ将軍や持論マンが「語りたい衝動」を抑えきれないと、全体のバランスが崩れてしまう。少し工夫すれば、みんなが気持ちよく参加できる場をつくることは可能だと信じたい。次回、説明会に行ったときには、ぜひこのアイデアを活用してほしい。もしかしたら、みなさんの隣に座っている“ヤジ飛ばし予備軍”も、「お、今日はスマホ投稿方式か。しかも、ユーモアあって憎めないな。」とニッコリとされるに違いない。と、信じたい。