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アネモメトリ -風の手帖-

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#321

オリンピックスタジアム—時代を越えて、市民が集う場所
― カンボジア王国 プノンペン特別市

夕方になり日差しが和らぎはじめるころ、オリンピックスタジアムのあるナショナルスポーツコンプレックスへ人が集まり始めます。屋外競技場のまわりを歩いたり走ったりする人たち、バドミントンをするグループ、エアロビクスやダンスに興じる団体など、年齢を問わず多くの人たちで賑わいを見せます。スポーツに興じるだけでなく、競技場の椅子に座って語らいながら時間を過ごす人々の姿も見られます。
発展が進み高層ビルが乱立するプノンペン市内では、公園のように自由に過ごせる場所が多くありません。そんな街で、オリンピックスタジアムは市民の憩いの場となっているのです。

約7万人が収容できる屋外競技場。カンボジアでオリンピックが開催されたことはないが、オリンピックの名で親しまれている

約7万人が収容できる屋外競技場。カンボジアでオリンピックが開催されたことはないが、オリンピックスタジアムの名で親しまれている

特定のスポーツをするわけでなくても人々が自然と集うオリンピックスタジアム

特定のスポーツをするわけでなくても人々が自然と集うオリンピックスタジアム

この場所が生まれた背景には、独立後のカンボジアが新しい国を築こうとした時代がありました。オリンピックスタジアムは1964年、カンボジア初の建築家といわれるヴァン・モリヴァンの設計で建設されました。シハヌーク国家元首(当時)が国の威信をかけた国家プロジェクトとして計画したものの国内情勢が不安定となり、内戦時には処刑場として使われた暗い過去を持ちます。近年では敷地の一部が民間企業に貸与され、コンドミニアムなどが立ち並び、建設当初のモリヴァンの構想を完全な形で見ることは難しくなっています。

カンボジアの気候風土を考慮した設計の屋内競技場。アンコール遺跡の構成原理を取り入れたニュー・クメール建築の代表作の一つ

カンボジアの気候風土を考慮した設計の屋内競技場。アンコール遺跡の構成原理を取り入れたニュー・クメール建築の代表作の一つ

カンボジアでも人気のスポーツはサッカーです。オリンピックスタジアムは代表チームのホームスタジアムとしても使われ、2018年FIFAワールドカップ・アジア二次予選では日本戦の会場となりました。日本のテレビ中継で、このスタジアムをご覧になった方もいるかもしれません。現在もサッカーをはじめ、バレーボール、水泳など多くのスポーツが親しまれています。日本の武道も例外ではなく、敷地内では合気道をはじめとする稽古が続けられています。

ワールドカップ2018年アジア二次予選の日本戦の様子 photo by Shiihara Tadahiko

ワールドカップ2018年アジア二次予選の日本戦の様子
photo by Shiihara Tadahiko

日曜の夕方、サッカーリーグの試合を観戦する人達

日曜の夕方、サッカーリーグの試合を観戦する人達

2023年に新国立競技場ができてからも、オリンピックスタジアムはスポーツを超えた市民に愛される場所であり続けています。カンボジアでは経済成長とともに、人々が運動や交流を楽しむ光景が見られるようになりました。子どもから高齢者までが思い思いに体を動かし、観客席では友人同士が語らう。そんな光景を見ると、この場所が再び市民のための場所になったことを実感します。独立の希望を託された建築が激動の歴史を経験し、そしていまは人々の日常に寄り添う場所として、世代を超えた交流の場となっています。

参考文献
『a+u ヴァン・モリヴァン 1926–2017』No.567、エー・アンド・ユー、2017年12月号。

(三浦まり子)