6)疎のままで、質を変える
地域のありかたについては、都市をモデルとして、そこに追いつくことを発展とみなすような価値観が長く存在した。坂本さんは、「そのポジションからダイナミックに変換していかないといけない時期だ」と話す。
坂本:自分を含めて都市から地域に移り住んだ人たちは、少なくても地域の良さを感じ取っていますよね。この現象が、今は海外からの移住者にも起きているわけです。国境を越えてでも東吉野村に来たかったっていう人だから、自分らよりも切実性が高い。そういう強く望んだ人たちが住んでる地域って、おそらく良くなるはずなんですよ。
地域っていうものが地域として成立することを、これから積み上げていきたいと思っています。
坂本さんは、情報学者・脳科学者の安宅和人さんの「風の谷」という構想にも言及した。都市集中型社会に対して、自然豊かな疎空間(人口密度が低く社会基盤の維持が困難とされがちな場所)を再構築する構想である。
坂本:密じゃなく疎の状態が前提で、価値である、と。余白が価値なんだと気づいた上で、そこで住める人のタイプを増やせるかというチャレンジなんだろうなと思っていて、東吉野村もそうなろうとしている気もします。
坂本さんは、そうしたありかたを、地域だけではなく、国にも見ている。
坂本:ちっちゃいものの集合体が、国なんですよね。「大文字の日本」を一つでやるんじゃなくて、「小文字の日本」の集合体こそが日本である、みたいな。江戸時代の幕藩体制は、各地で文化を醸成してたんですよね。それぞれの地域がそれぞれの地域として、自立稼働できる状況を目指すのが重要だと考えてます。
日本全体の人口減少に対して、人口構成がどう変わるか、あるいは質的にどう転換できるかが、ここから10年の目指すべきポイントだと坂本さんは考える。
坂本:東吉野村だけではなく、日本の地域にはポテンシャルがあると思うんです。どういうものがいいと思っているかという地域の価値や、どういう人がこのエリアの未来にふさわしいかを論じ、共通認識を醸成しないといけないフェーズです。
移り住む・住まないとかじゃなく、地域が地域らしく開かれていく、あるいは閉じられていくのかわかんないんですけど、いずれにせよ、今の時代に「らしく」ある価値としてちゃんと認識できる状況をどうつくるか。それがこれから先、重要になってきますし、やりたいですよね。
第一世代の移住者から始まって、第二世代にあたるクリエイター移住者、海外からの移住者と、移住が増えつつもその質は変わってきた、東吉野村。
こうした変化は、行政と民間が手を携えて取り組んだからこそ、起こったことかもしれない。しかし、それだけではなく「その地域に住む人や移住者たちがどう考え、何を求めているか」がうねりをつくっていった。それは「東吉野村だから起きた」のではなく、他の地域でも起こりうる。
「できることはたくさんある。そして、あなたはどうしたい?」。
東吉野村の変化は、私たちにそんなメッセージを投げかけている。
土地の魅力や価値、そして住む人が自分の想いも認識して育てていくことが、小さくても大きな一歩になっていくのだろう。

アメリカから移住した陶芸家、フランシス・ブリベンさんの茶碗でお茶を。茶も土も、地産地消を心がけたものづくりだ。そんな積み重ねがこの村の厚みを増している
編集者、ライター。埼玉県出身。編集プロダクション勤務を経て、2003年よりフリーランス。さまざまな女性誌を経て、東日本大震災を機に「ローカル・ソーシャル」を専門分野にし、雑誌『ソトコト』などで全国各地の取材を始める。2017年、東京から奈良へ移住。現在は、書籍制作、ローカルメディアの編集・ライティングのほか、地域のブランドにおけることばのブランディング、オンラインの編集・ライティング講座といった活動もしている。noteでは「加齢」をテーマに執筆中。https://note.com/kokuboyoshino
山形県出身、京都市在住。写真家、二児の母。夫と一緒に運営するNeki inc.のフォトグラファーとしても写真
を撮りながら、展覧会を行ったりさまざまなプロジェクトに参加している。体の内側に潜在している個人的で
密やかなものと、体の外側に表出している事柄との関わりを写真を通して観察し、記録するのが得意。 著書に
『ヨウルのラップ』(リトルモア 2011年)
http://www.naritamai.info/
https://www.neki.co.jp/
文筆家、編集者。東京にて出版社勤務の後、ロンドン滞在を経て2000年から京都在住。書籍や雑誌の執筆・
編集を中心に、アトリエ「月ノ座」を主宰し、言葉や本に関するワークショップや展示、イベントなどを行
う。編著に『辻村史朗』(imura art+books)『標本の本–京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)限定
部数のアートブック『book ladder』など、著書に『京都でみつける骨董小もの』(河出書房新社)『京都の市
で遊ぶ』『いつもふたりで』(ともに平凡社)など、共著書に『住み直す』(文藝春秋)『京都を包む紙』(アノ
ニマ・スタジオ)など多数。青幻舎のサイトにて『女性と工芸 1900-1945』連載中。滋賀県陶芸の森評議員。
2012年から2020年まで京都造形芸術大学専任教員。
https://note.com/seigensha/m/m03df2469f0f4


