1)「こうあるべき」から離れられる場所
前回特集した2017年(#47、#48、#49、#50)から、東吉野村ではどのような変化が起きたのだろう。
2017年に約1,800人だった人口は、2025年の国勢調査によると1,281人に減った。
一方で、オフィスキャンプ東吉野には2015年のオープン以来、のべ10,000人を超える人が来訪している。それもあって、オープン年度から5年間で184人が村へ転入(「東吉野村第4次基本構想」より)。以降も転入者は増えている。
特筆すべきは、2017年には10数人だった外国人が37人へと急増したことだ(2025年調査「在留外国人統計」より)。おおよそ30人に1人が外国人になっている。
7月号や8月号で取り上げたように、海外からの移住者たちはそれぞれ東吉野村での暮らしを慈しみ、充実した日々をおくっている。オフィスキャンプ東吉野を起点に始まった“移住のうねり”は、いまや海外から移り住む人たちも含むようになったのだ。


オフィスキャンプ東吉野。村役場から見て、高見川にかかる橋を渡った先にある
2017年の特集で取り上げた日本人移住者たちの活躍も目覚ましい。例えば、思想家で「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」をこの村で営む青木真兵さんは『手づくりのアジール──「土着の知」が生まれるところ』(晶文社)をはじめとした著書や、妻・海青子(みあこ)さんとの共著を次々に出版し、複数のポッドキャストやラジオ番組で発信もしている。
写真家の西岡潔さんは「はじまりの東吉野 オープンアトリエ」の発起人となって2023年から毎秋開催し、常設スタジオ「マトマニスタジオ」も開設して週末にはギャラリー&カフェも運営している。
デザイナーの菅野大門さんは、変わらず風土に根ざした活動を続けている。近年では、吉野檜を使って極細の利久箸をデザインした箸「大門箸」をリリースした。
オフィスキャンプ東吉野の代表社員であり、クリエイティブディレクターの坂本大祐さんは、まだ移住者がほとんどいない時期に、いち早くこの村に移住して、オフィスキャンプ東吉野の立ち上げにかかわるなど、クリエイティブな人たちが集まる村づくりの中心となってきた。
その後、何人もの移住にかかわり、その変化を見てきた存在でもある。そんな彼に「東吉野村にとってのこの10年」をたずねた。また、地域社会のこれからについても話を伺った。

坂本大祐さん。イギリスから移住したデザイナーのフィリップ・コンランさん、映像制作のエミリー・スミスさん夫妻宅にて
坂本:村にいると自分に向き合える時間が長く、都市のように誰かとの比較や「こうあるべき」みたいなものが強く働かないから、ロールモデルに引っ張られないんですよね。遮断したいときには、遮断できるっていうか。そこを抜き差しできるっていうのが、こういう場所の強みかなと思うんですよ。青木くんをはじめ、移住者たちの選択・生き方にはこの土地が影響していて、そこがおもろいなと思うんですよね。
都市では、自分と同じ肩書きを持つ人や近しい活動をする人を見つけやすい。だから誰かとの比較も生まれやすいのかもしれない。坂本さんは、清流をのぞむ自宅のリビングで「こういうとこにいてると、それぞれの存在が唯一無二なんで」と微笑んだ。本来、人は誰もが、唯一無二のはずだ。
坂本:移住者は村と都市を行き来している人も多いんです。その行き来のなかで練られているものがあって、みんなそれぞれの特性をより強めている気がします。


