以前、このリレーコラムの#374で「研究成果を公開すること」と題して京都文化博物館で開催した特別展のことを紹介した。今回はいわばその続きである。ぜひ前回の内容も読んでいただきつつ、この小文を読んでいただけるとうれしい。
このコラムが公開されるのは9月の1週目なのですでに展示期間は終わったが、8月20日から30日まで松尾大社で松尾大社所蔵史料特別展覧会「天下人と松尾社」を開催した。
これは2024年に開催した京都文化博物館と鳥取市歴史博物館での特別展「松尾大社展」を踏まえて、東京大学史料編纂所とのプロジェクトで調査・研究が進められていたなか、松尾大社の宮司様からご高配を賜り、松尾大社文化研究所を2025年に立ち上げていただいたことに端を発する。
ひとり研究員として、史料の調査・研究や松尾祭の聞き取り調査などを進めているが、前回のコラムでも書いた通り、「文化資産をどう調査・研究していくか。さらには研究する側として少しでも役に立てるように成果を発表していくか」。一介の研究者としての課題である。論文を執筆するのは研究で口に糊する大学教員としては当然のことだが、神職の皆さんと氏子の皆さんにとって論文は遠い世界である。
そこでまず手始めにnoteにて松尾大社文化研究所のアカウントを作り、史料紹介を毎月13日に公開していこうと自分に課して執筆している。史料を読むことは愉しいのでこれまで集積された調査内容や、気になっていることなどをつらつらと書いている。
そして今年に入ってから、氏子の皆さんや市民の皆さんに松尾大社所蔵史料をみてもらう機会を持てないかと禰宜の岩田康彦さん、元禰宜でいまは嘱託となっている竹内直道さんにご相談し、境内で展示ができないかと模索し始めた。しかし課題は多い。まずは時期、そして場所である。
まず時期について。神社は多くの人が訪れる場所である。氏子の皆さん、崇敬者(松尾大社でいえばお酒関係の方々など)、そして観光客。また結婚式も行われている。そうしたなかで夏は比較的祭礼もなく、何より暑い。そのため結婚式も少ないのではないかと思い開催時期を定めた。次に場所である。松尾大社には博物館相当施設の神像館があるものの重要文化財に指定されている神像が安置されており、おいそれと移動して展示スペースを空けることは難しい。神像館以外、展示ケースがないので新たに購入するか制作しなければならない。このようにいくつかハードルはあったが宮司様をはじめ神社の皆さんのご理解を得て開催が社内で決定した。
次に展示内容の選定と、共催などの申請である。第1回目ということでメジャーどころの史料がよいだろうと「天下人と松尾社」としたが、豊富な史料を所蔵されている神社のため、数が多く、どれにしようかと思案した。特に木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉の史料については調査で明らかになったこともあり、それを中心に展示しようと思い定めた。
次に研究成果としては、わたしだけで進められたわけではなく、竹内直道さんの豊富な知識、そして東京大学史料編纂所のプロジェクトメンバーであり友人の渋谷綾子さん・天野真志さん、前回の特別展でもご担当いただいた鳥取市歴史博物館の石井伸宏さんたちの成果でもある。そこで東京大学史料編纂所に共催をお願いして許可をいただいた。
そして展示内容を詰め、キャプションを執筆し、概要の説明を書き、同時並行で新聞社やテレビ局に展示案内を出す。幸いにして、NHKさんをはじめ多くのメディアに興味をもってもらい、取材対応をした。おそらくこのコラムが出たころにはすべてのメディア記事も公開されていることだろう。
展示期間中には氏子の方々や市民の方々はもとより、本学の芸術教養学科の学生の皆さんが団体で見学にこられ、また芸術学科の皆さんもお越しくださった。特に芸術教養学科はもともと所属していた学科であり、いまもこうして関わりをもてているのはとても嬉しいことだった。
かくして手探りではじめた展示構想は、なんとか形になって幕を閉じた。
直接的に何かができる訳ではないが、松尾大社の歴史や文化が市民・氏子の皆さんにさらに広く知られることは、松尾祭といった祭礼を維持・継承していくことにささやかながらつながると期待している。また日々の社務に追われる神職の皆さんにとっても所蔵されている史料を見たり、説明を聞くことも少ないという。神社からご高配を賜り史料を閲覧させていただき、研究をしている側にとってできることは、研究成果をわかりやすく伝えることだろう。
来年以降も第2回、第3回と開催しつづけること、それが研究成果を公開することであり、研究・教育の社会実装でもある。学生や修了生・卒業生に背中を見せる意味でも、こうした取り組みを続けていきたい。
(2026年9月6日公開)


