アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

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#45

iPhone5と革カバー
― 砂山典子

(2016.09.05公開)

今や、自分の生活に欠かせない玩具、iPhone1998年、そのうち電車の中でみんなが携帯を見ている嫌な感じになるよね、と斜に構えていた私も、今や率先してiPhoneを開いている。
私は30年間、主に自分の身体を駆使して踊り、表現活動をしてきた者である。ダンスカンパニー所属当時は、師のダメ出しによって動きの欠点と目指す方向が見えていたが、自分で作品を作ることになると自分と共同制作者の動きを撮影し、共有することが重要になった。つまりカメラが客観的な眼差しとなってくれた。ダムタイプに参加する以前の80年代は、まさか自分がノートパソコンや、ビデオカメラを持ち歩くとは想像していなかった。
94年の香港ツアーでは、いち早くSONYminiDVビデオカメラを購入し嬉々としていた。そのうちに解像度を求め、HDVビデオカメラを持ち始める。自分が小さいからか、miniサイズに惹かれコンパクト化を望んだ。人間って欲動に引っ張られる。ふいに現れる面白い瞬間に出会うたび、「ポケットに入るサイズなら、今、この瞬間を逃さずに撮れたはず!」と思った。その10年後にスマホが登場した時は、私の願望を実現してくれる人がいるんだ! と感動したものだ。
2011年、東日本大震災が起こった時、私は表現活動をしている場合じゃないと、畑を作る為に奔走し始めた。その中で、さまざまな農法が存在することを初めて知り、体験を通して、川口由一さんの自然農に行き着いた。探し回って、放棄されている土地を無料で借りることが可能になった。小学校のプールくらいの広さに、5m ×1 m 幅の畝(うね)を24本、ひとりで立てた。これは大きな自信につながった。
自然農を実践している先輩の中に革職人がいて、iPhoneーを試作したから使用感を教えて欲しいと言われ、革のカバーをいただいた。iPhoneのスマートなルックスが、一気に素朴になってしまい、はじめは少し残念な気分だった。
畑を作っていると様々な初めてに出くわした。例えば、刻々と変化する空の色風に揺れるカボチャの葉の上で、落ちない様に移動しながら交尾しているウリハムシ人生の先輩諸氏から伝授していただく味噌や生ハム作り。そんな折々を、iPhoneと革カバーと共に過ごした。
(うね)を立てる合間も面白い出来事を発見すると、シャベルを放り出し土まみれの手で、また草をむしっていたその手で革カバーを持って撮影した。日照が厳しい時も、革カバーはiPhoneを防護してくれた。
さて、人生が転換し、また私は舞台に戻ってきたのだが、益々このiPhoneしている。革カバーを三脚代わりに椅子やピアノの上に置き振付けのために動画を撮り、プロフィール写真を撮り、日々、アイディアの為にやたらシャッターを切っている。メモ代わりに、フィールドワーク録音に、モデル時のタイマーに、とまさに多機能、八面六臂の大活躍。だから、この革カバーさんは、煌めくシャンデリア空間から、堆肥の香り漂う畑の土の上までと、振り幅の広い経験をしている。風合い貫禄、味わい深い存在感を放つ。驚きなのは、革の香りをいまだ残していることだ。この革カバーがある為に、iPhoneのモデルチェンジが出来ないでいる。

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砂山典子(すなやま・のりこ)

ダンサー、身体表現活動家。80年代、コンテンポラリーダンス界のゴッドマザー・黒沢美香に師事。 1990年~2008年、DUMB TYPEとして共同制作。主にパフォーマーをつとめる。並行してナイトクラブやキャバレーで、矛盾する事柄やタブー視されがちなことをダンスショーや寸劇仕立てにて国内外で多数発表。 OK GIRLS , BEST ADULT, BITERS などのユニットを作りパフォーマンスや展示を行う。ライブインスタレーション作品「むせかえる世界」などもある。