アートとともにひと、もの、風土の新しいかたちをさぐる

アネモメトリ -風の手帖-

風を知るひと 自分の仕事は自分でつくる。日本全国に見る情熱ある開拓者を探して。

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#42

感覚に正直でいること、発想をつなげていくこと
― にしもとひろこ

(2016.05.05公開)

歌うたい、グラフィックデザイナー、絵描き。にしもとひろこさんは、クリエイターとしてさまざまな顔をもっている。音楽ユニット「たゆたう」のボーカルと言えば、さらにピンとくる人も多いかもしれない。それらの一見異なる表現をつなげている、歌うたいでもデザイナーでもない、にしもとひろこさん自身の素顔をのぞいてみた。

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——公開されているプロフィールを見ると、広い範囲で活動されているなと感じます。どれを本業とされているのですか?

わたしも聞きたいくらい、本業が何なのかと問われると答えに困りますね。やりたいことを続けていたら、それが徐々に対価に繋がって、結果的にそれぞれの活動が全部合わさって生業になっていたという感じです。
近い感覚でいうと、ライフワークのこと。自分の中では利益の有無とは関係なく毎日コンスタントに行っていることというイメージなのですが、音楽やイラストレーション、クリエイション、グラフィックデザイン、庭にある小さな畑のことなど、日々何かしらの表現活動はしていますが、厳密に毎日欠かさずに行えていることといえば、食べることと寝ることくらいですね(笑)。

——にしもとさんと言えばユニット「たゆたう」での音楽活動が印象的ですが、それをメイン活動にしているわけではない、ということでしょうか。

「たゆたう」をはじめたのは大学生のころ。学生時は学園祭や軽音楽部主催のイベントでのみ演奏していましたが、学外の会場で開催した卒業イベントをきっかけに、ライブハウスなどをはじめ、様々な会場でライブ活動をするようになりました。その後数年は「たゆたう」がメインの活動でしたが、現在は他にも並行して活動していることがあるので、メインというのとは少し違うかもしれません。ただ、一番長く続けているのが「たゆたう」、自分にとっては軸にもなっていると思いますし、とても大切にしている表現活動です。

ユニット「たゆたう」。ギター&ボーカルのにしもとひろこと、バイオリンのイガキアキコのふたり

ユニット「たゆたう」。ギター&ボーカルのにしもとひろこと、バイオリンのイガキアキコのふたり

——大学卒業と同時に、少しずつ「たゆたう」として活動が広がっていったのですね。そのころ、将来的な展望は何かありましたか?

限りなく漠然としていましたね……。大学生活の終わり頃から「たゆたう」の相方イガキと一緒に住んでいたのですが、当時わたしたちの家は人の出入りが激しく、学科や学年問わずいろいろな活動をしている友人たちが行き来をしていました。今は学生だけど、いずれさまざまなかたちで社会に出ている人が自由に集まれて、話したり飲んだりしながら自然と情報交換もできるようなスペース兼家を持ちたいと思っていました。同時に、就職ではないかたちで何か自分たちで仕事をできないかなとも思っていて。そんな中、縁があって京都造形芸術大学の通信教育部が月に1回発行している学内情報誌のデザインの仕事をさせていただくことになったんです。
ただ、定期刊行物なのでスケジュールがタイトな上、ボリュームもあったのでかなり手一杯になりながらも、合間にライブをするという時期が何年か続きました。しかし、それでは自分たちの思うようには活動できない。このままではいつまで経ってもやりたいことができないと思い、よし辞めようと決断しました。それ以来、やりたいことをやりたいタイミングでできる環境をいかにつくるかということを考えながら、今に至っていると思います。

——デザインと音楽は異なった表現だと思うのですが、にしもとさんにとってそれぞれはどういったものでしょうか。

56年ほど前だと思うのですが、ライブをすることが特に楽しくなってきたと同時に、多くのオファーも受けるようになりました。その時期に大きなデザインの仕事が重なって、それぞれの時間の使い方やバランスをとるのが難しく感じることがありました。当時、ライブはすべてを放出するような感覚でしていましたし、デザインの仕事はそれとは真逆で思案しながら作業していたので、短いスパンでのその切り替えの繰り返しが困難だったのだと思います。デザインの仕事はやりたくないない事かもしれない、とも思いました。しかし、一息ついて振り返ると自分の未熟さを痛感することもできましたし、同時にデザインの仕事でも自分は表現をしていたのだと改めて気付けました。音楽とデザインは別物と言えば別物かもしれませんが、例えば「アウトプットするもの」などという大きいくくりで捉えると、違いはないと思います。心のどこかで、それは別物だという感覚にピントが合ってしまったから、あの頃はストレスを感じたのかもしれません。今は以前にも増して、すべてはつながっているのだなと実感しています。

2014年8月に塩江美術館にて開催した個展の様子

2014年8月に塩江美術館にて開催した個展の様子

——にしもとさんの感覚を刺激するものはなんですか?

誰かの作品を観たり、ライブパフォーマンスを体感したりすることで感銘を受ける場合も多くありますし、日常で出会った驚きや感動から刺激を受けることももちろんあります。例えば、海に映る満月の静かな力強さに圧倒された時、海の向うから歌が聴こえたような気がして、そこから妄想が膨らんで物語や音が生まれたり。舞台で踊るダンサーの動きがとても心地よく体に響いて、その感覚がリンクして自分の声の表現がふくよかになったと感じた瞬間もあります。舞台作品や音楽ライブ、展示作品などをたまに観に行くのですが、観た内容より感動した感覚を覚えていることの方がはるかに多いので、感じさせたものが何だったかよりも、その感覚自体が自分の表現の種になっているように思います。

——感じたことを論理的に考えて表現に変換するのではなく、そのときに受けた感動が表現の源になる。

感覚の話で言うと、わたしの両親はふたりとも耳が聴こえなくて。わたしは兄と2人兄弟、両親は共働きで祖父母も一緒に暮らしている、なんでもない2世帯家族なんですが、両親と会話をするときは簡単な手話と口話、少し複雑な会話は筆談で行っていました。そんな生立ちもあってか、少ない情報から想像してコミュニケーションをとるという感覚が、自分の根底にあるかもしれません。

——感覚を共有することは、にしもとさんにとって表現をする上で重要なことなのかなと感じます。それはただ曲をつくる、何かをつくるだけで終わらず、外にアウトプットしていることにもつながっているのでは、と思います。

自分にとって、活動のひとつひとつはコミュニケーションツールなんだと思います。けれど、こうやってコミュニケーションをとっていきたい! という強い意思があるわけではなく、もっと気楽な感覚に近いです。漠然と、これからも歌を歌い続けるんだろうなと感じていますが、もしかしたら歌わなくなる日が来るかもしれない。すべてが結果的につながっているだけで、大それたことでも必要以上に意気込んでやることでもない。「生活」の延長なんだと思います。そういう意味では、わたしがしていることはすべてライフワークなのかもしれないですね。

——ちなみに今していること、これからやりたいと思っていることはありますか?

去年の夏から、予てより興味があった陶芸をはじめました。陶芸家の友人に協力してもらいながら制作しています。作品は陶器ですが、キャンバスに描くのと似た感覚で絵を入れているので、わたしにとってはイラストレーション作品でもあります。きっかけは、そもそも自分自身が部屋に絵を飾る習慣がないことからでした。生活の中に表現を落とし込めないかと考えていて、器づくりがアウトプットとしてしっくりきたんです。まだ始めたばかりで苦戦することも多いですが、やればやるほど興味津々。続けたいことの1つです。

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2016年3月に行った個展で発表した陶器やピアスたち

2016年3月に行った個展で発表した陶器やピアスたち

他につくってみたいものは、服でしょうか。高校生のころから興味があって、スケッチを描いていたんですが、制作はしていませんでした。そんな風にやってみたいと思いながら実行まで至っていないものがいくつもあるんですが、頭の中で進行していれば何かの機会にできるかもしれない。次の大きなライブの舞台衣装は自分たちでつくってみよう、とか。時間ってすごく限られているので、機会がないとなかなか実現できないことも多いですよね。自分の専門外のことなど、新しく始めたいことも含め、まだまだ挑戦してみたいことばかりです。

インタビュー・文 浪花朱音

2016.4.10 京都造形芸術大学内カフェにて取材

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にしもとひろこ

1982年大阪生まれ。2004年京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業。
空気にただよう色をなぞるように、紡いだ音を歌う。
イガキアキコとのアコースティックデュオ「たゆたう」や、たゆたう・かりきりん・池田安友子の合体ギャルバン「コロイド」で歌とギターを演奏。ソロでは自作の物語を詠み歌うスタイルでパフォーマンスを行う。
2014年に大阪の劇団sundayの公演『友達』の音楽をザッハトルテのヨース毛と担当してから、ヨース毛とのスピンオフヨ~デルユニットでのライブもちらりほらり。
音楽活動と並行して、グラフィックデザイン、イラストレーションやクラフトなど、クリエイターとしても活動している。
http://nishimotohiroko.net

 

浪花朱音(なにわ・あかね)

1992年鳥取県生まれ。京都造形芸術大学卒業。京都の編集プロダクションにて、書籍の編集などに携わったのち、現在はフリーランスで編集・執筆を行う。「京都岡崎 蔦屋書店」にてコンシェルジュも担当。